第四十三時限目

拓に対面し、いつもの元気を取り戻した桂太君が生き生きとした目であたしに言った。




「お、屁ったれ女も来てたのかよ」




拓が悪戯っ子の様な笑みを浮かべてあたしを見る。




(このっ…)




「…謝れ」




「はい!?」




「あたしに謝れっ!あんたが連絡しないから、毎朝待ち惚け食らってたんだからっ!」




あたしは鼻息を荒くしながら拓を睨む。




「お前、ずっと待ってた訳?」




「普通待つでしょっ!」




「……ごめん」




(…あ、あれ?)




いつもの切れ味がない拓との言い合いに、あたしはどことなく不完全燃焼。




「…とりあえず中入れよ」




(何か…今日の拓、浮き沈み激しい…?)




拓の不思議なテンションに違和感を覚えたあたし達は、とりあえず部屋の中へと足を踏み入れテーブルの周りにそれぞれ腰を下ろした。



「…で?一体何があったんでしょうかねっ」



桂太君がタバコを取り出し、その内の1本を拓へと差し出す。




「…別に」




「『別に』じゃねーよ。理由言え」




「生理だよっ、生理っ」




「あんた、それ女を侮辱してないっ!?」




拓のふざけた返事に、菜緒の眉間に皺が寄り出す。




「百歩譲ってあたしと桂太には話せなくても、彼女の結芽にはちゃんと言わないと。ねぇ?結芽?」




「…知らない。言いたく無いなら別に言わなくていいよ」




「ダメだよ結芽ちゃんっ」




「そうだよ?結芽だって本当は知りたいんじゃないの!?」




「……」




そりゃ勿論知りたいし、本当は無理矢理にでも聞き出したい。




でも、今日の拓は本当に変。




菜緒や桂太君とは、かろうじて視線を合わせるのに、何故かあたしとは目を合わせてくれない




わざと拓を凝視してみても、あえてあたしを視界から外している様にしか感じ取れなかった。



「言いたく無いんでしょ?」




少し棘がある言い方をしてしまったあたし。



「あぁ。言いたくねぇよ」




「あっそ、なら別に聞かない。その変わりその冷めた態度直してくれない?」




「文句あんなら帰れば?」




ダルそうな顔でそう言われ、あたしは無言で立ち上がった。




「心配して損したっ!どうもお邪魔様っ」




「結芽ちゃんちょっと待ってよ!」




「あたしがいると機嫌悪いみたいだから、代わりに桂太君達が聞いてあげて」




バックを手に持ち、あたしは真っ直ぐドアへと向かう。




「結芽待ちなってばっ!」




「菜緒、また明日ね」



(帰るの、止めさえもしないんだね…)




こうして、あたしは子供の様に1人拗ね、拓の家を飛び出した。







そして夜




携帯に菜緒から連絡があり、あたしが去った後も拓はあんな調子だったらしく、いい加減困り果てた菜緒達もすぐに帰ってしまったらしい。



あたし達だけがこんなに気を焦らせても、肝心の拓が事情を話してくれない事には何も始まらない。




話し合った末、とりあえず拓が明日学校来たらまた考えようとゆう事にし、菜緒と電話を切った。







翌朝




今日は生憎の雨。




(拓…学校来るかな)




あたしは傘をさし、自転車に乗って拓との待ち合わせ場所へと向かった。




「凄い雨だな…」




徒歩にすれば良かったのだろうか




若干風も入り斜めに降り注ぐ雨で、あたしは片手運転を上手く操作する事が出来ず、結局傘をさしていたのにもかかわらずズブ濡れになってしまった。




そして、いつもの時間より少しオーバーしてあたしは駅に到着




傘で顔を隠す生徒が多い中、拓を見失しなってしまわぬ様目を凝らした。




(もしかして今日も休みなのかな…それとも先に学校に行っちゃったとか…)




「結芽っ!」




突然、人だかりの中からあたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。

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