第四十二時限目

次の日。




何故か拓は学校を休んだ。




桂太君に理由を聞いても分からず、そして肝心の拓に電話やメールをしてみても、その日1日は全然音沙汰が無かった。




あたしは拓の家まで様子を伺いに行こうとしたが、たかだか音信不通1日




大袈裟に行動する事は無いと思い、あたしはあえて深く考えない様にした。





でも、そんな音信不通が続いて3日目。




学校にも姿を見せず、桂太君や菜緒の電話にすら反応を見せない拓にいい加減苛立ちが芽生えて来たあたし達は、放課後拓の家へと向かう事にした。




「あいつ、どうしたんだろな」




桂太君がどこか寂しげな表情で言う。




「結芽、あんた本当に何も知らないの?」




「うん…日曜日に駅でさよならした時は別に普通だったし…」




「あいつ風邪引いたとか!?」




「あ、風邪のついでに携帯をトイレに水没させちゃったとか…?」



きっと、桂太君と菜緒も心配なんだろう




思い付く予想を全て取り上げ、あれやこれやと論議をしていた。







そして拓の自宅前




あたし達は念の為にもう一度拓に電話を掛けて見た。




「部屋の電気…まだ付けねぇか…」




「桂太は拓の親友なんだからあんたが電話しなさいよ」




菜緒に言われ、ズボンから携帯を取り出した桂太君がリダイヤルで拓に電話を掛ける。




「……」




「桂太君、どう?」




「…出ないね」




「んじゃ次はあたしっ」




今度は菜緒が携帯を出し、連続で拓の電話を鳴らす。




「やっぱダメだろ?」



「うん、出ないね…」



季節は初夏を過ぎた頃。




拓の部屋は陽当たりが良い為、ある程度窓を開けていないと蒸し暑い。




「結芽、最後に掛けてみて」




「う、うん」




「あ、結芽ちゃんちょっと待って」




携帯を取り出そうとするあたしに、桂太君が言った。




「どうせあいつ電話出ないよ。だからもう家上がろ?」




「え…でも拓怒らないかな?」




「大丈夫!電話に出ねぇ拓が悪いんだし…な?菜緒」




「それもそうだねっ、お邪魔しま~す」




(本当に大丈夫かな…)



今日は平日




きっとおじさんとおばさんは仕事でいないはず…




「お、お邪魔します…」




堂々と家の中へ入って行く桂太君と菜緒の後ろを、あたしはイソイソと歩き、拓の部屋がある2階へと上がった。




「結芽ちゃん…あいつ何してると思う?」




「…もしかして寝てるのかも…」




拓の部屋の前




物音一つしないドアの向こう側に、あたし達は息を潜めて話す。




「桂太っ…ドアノックしてっ」




菜緒の言葉に桂太君が頷き、右手をドアの前に掲げた時…






「何してんだよ!?」





あたし達はビックリ。



ノックをしていないのに、ドアの向こう側から拓の声が聞こえて来た。




(何っ!?冷や汗出ちゃったよ…)




ドアノブが回り、静かに扉が開かれる。




そして、あたし達の目の前には3日ぶりに見る拓の姿があった。




「何だお前等。目的は金か?」




Tシャツにジーパンと、とてもラフな格好の拓。




「目的はお前だよっ!このアホがっ」




「あ?何で切れてんだよ?」




「あんたね、何の為に携帯持ってんのよっ!



桂太君に引き続き、菜緒も拓に言葉を投げる。



「携帯!?…あぁ、ちょっと放置してた」




「何で3日間も音沙汰無い訳?しかも学校までサボって!!」




「コラ菜緒っ!勝手にサボリって決め付けんなっ!」




「今のあんたの何処が病人なのよっ!あたし達心配したんだからねっ!」




見る限りは、いつもと変わらない拓の様子。



(良かったぁ…これだけ口答え出来るなら平気だよね)




「結芽ちゃんからも何か言ってやんなよっ!」


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