第四十一時限目

「結芽ちゃん、拓は辞めた方がい」




「和っ!いい加減にしなっ!」




「そうだ和!寒風摩擦でもしてろっ」




「ふんっ!生憎今は冬じゃないしねっ、それに俺フンドシ持ってないし~」




「あ、あの…」




「結芽ちゃん、ほっときなさい。それより、夕飯の準備手伝ってくれる?」




「あ、はい」




『喧嘩する程仲がいい』




そんな昔からの言い伝えを思い出し、あたしはおばさんのいるキッチンへと向かった。




「何したらいいですか?」




「う~ん、じゃこれ切って?」




「おばさんっ!結芽に味付けさせんなよっ」



「うるさいっ」




今日の夕飯は、おばさんお手製のキーマカレーとごぼうサラダ




「結芽ちゃん、大丈夫だぞ。美和なんか最初米洗うのに洗剤使ったんだから」




「えっ…」




「和、本当うるさい。お願いだからテレビ見てて…」



おばさんの顔は真っ赤。




(可愛いなぁ…おばさん)




「あ、おっさん聞いて聞いて!昨日結芽寝ながら屁…」




「だ――――っ!おっさん耳塞いで!」




「…結芽ちゃん今俺に『おっさん』って言った?」




「へ…?あっ、いや…つい勢いで…」




「ほらほらっ、もうすぐ出来るからテーブルの上片付けて!」




「「へ―い…」」




こうして、あたしはほとんど手作う事無く料理は完成




あたし達は気を取り直して美味しい料理を頂く事にした。





食事中は、もう爆笑の嵐。




おじさんがビールを飲む時、小指を立てるだの




その小指が微かに震えているだの…




そんなくだらない会話が延々と1時間は続き、あたし達は団欒の一時を過ごした。







時刻は夜の9時。




「あたし、そろそろ失礼します」




「じゃ俺送るわ」




「何だ、話し足りんな」




「また遊びに来ます(笑)」



「結芽ちゃん、またいつでもいらっしゃいね」




「はい。ご馳走様でした」




「じゃ、行ってくる」



「おばさん、和也さん、失礼します」




2人に頭を下げ、拓とリビングを出ようとした時…





「拓」




おじさんが拓を呼び止めた。




「…何?タバコ?」




「今日は結芽ちゃん送ったらすぐ帰って来い」




「別にいいけど…何でまた?」




「色々と積もる話があるんだ」




「…分かったよ」




「結芽ちゃん、気をつけてな」




「はい」




(気のせいかな…一瞬おじさんの表情が曇った気がしたんだけど…)




「結芽、行くぞ」




「あ、うん」





こうして、何となく煮えきらないあたしと拓は靴を履き、玄関を出て拓が漕ぐ自転車に乗り駅へと向かった。




「悪いけど、今日は駅まででいい?」




「勿論!ありがとね」



駅に到着し、自転車から降りたあたしは時刻表を確認する。




「気をつけて帰れよ」



「大丈夫(笑)」




「…やっぱ家まで送っか?」




「いいってば!」




電車が到着するまでもうすぐ。




「拓、もう戻りなよ」



「お、おう。帰ったらメールしろ」




「了解っ」




「んじゃな」




拓が自転車にまたがり、あたしに背を向けて手を振る。




あたしは切符を購入し、ホームに入るとすぐに電車が到着するアナウンスが入り、待つ事無く自分の家へと帰った。




家に着き、あたしは直ぐ様拓にメールを送信。




《ただいま。今帰ったよ》




普段なら1分を経たない内に返信が来る




なのに、今日は1時間が経過しても拓からのメールは返って来なかった。




(お話の真っ最中かな…)




特別これと言って気にも止めなかったあたしは自分の部屋に上がり、疲れていたのかお風呂に入る事もなく眠りに就いた。



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