第四十時限目

「なぁ」




帰り道、あたしと拓はコンビニで購入したアイスを食べながら歩いていた。




「何?」




「お前…得意な事ってあんの?」




「無いよ。そんなの」




「…もっとかしこまって言えよ」




そう言い、拓が苦笑しながら食べきれず手に持っていたあたしのアイスを取り、頭に手を添えながらも全部完食してくれた。




「そういえばさ、もう少しで夏休みだな」




「だね」




「お前、ライブやるんだって?」




「うん、下手くそだけどね」




時刻は午後6時を過ぎたとゆうのに、空はまだ昼間の明るさを若干残している。




「見に行くから」




「バカ騒ぎはしないでね…」




「あ、おじさん達も誘ってみっかな」




「え゛―っ!それはダメ!」




「いいじゃん(笑)今夜言っとく~」





きっとあたしも拓も恥ずかしかったのだろう



お互い手を差し延べる事も無く、あたし達は無事拓の家に到着した。



玄関前




ふと横を見ると、リビングに灯りがともされていた。




「おじさん達帰ってきたんだね!」




「丁度いいじゃん。晩飯食ってけば?」




「いいの!?」




「おばさんが晩飯作ってればの話だけど…」



拓の後に続き、あたしはドアを開けて中へと入る。




「お邪魔しまーす」




「…あらっ!?その声はっ…!」




パタパタとスリッパの音を響かせ、おばさんが玄関まで出迎えてくれた。




「結芽ちゃ~ん!いらっしゃい!」




「こんばんわ」




「今ね、夕食準備してたの。良かったら食べてって~」




優しいおばさんの笑顔に、あたしもつられて笑顔になる。




「じゃぁ、ご馳走になります」




「和もいるから入って入って!」




「…あ、はい」




(和…?誰だっけ)




おばさんに背中を押され、あたしと拓はいい匂いのするリビングへと足を踏み入れた。



「こんばんわ―…」




入ってすぐ、背を向けて椅子に座っていたおじさんにあたしは挨拶をした。




「おっ、元気そうだね」




「はい。おじさんは?」




「……誰?」




おじさんが耳に手をかざし、あたしの方を向く。




「え…あの、おじさんは…」




「おじさん!?」




(あたし何か悪い事言ったかな…)




オドオドするあたしを見て、拓が丸めた新聞紙でおじさんの頭をポコンと叩いた。




「何未成年に因縁付けてんだよっ(笑)」




「コノヤロっ、年寄りに暴行すんな」




「結芽ビビってんだろーがっ!もっと優しいからかい方しろよっ」



背もたれに体重を掛け、おじさんがタバコを取り出しながら言った。




「結芽ちゃんよ」




「は、はい…」




「前に言った事、覚えてる?」




「…前…ですか?」




「んだ」




あたしは一点を見つめ、おじさんと会話した記憶を思い出す。



(ダメだ…分かんない)



「すみません…忘れました」




「あちゃー…、こりゃ晩飯無しだな」




「和っ!」




「はいはいっ、分かりましたっ」




おばさんの一喝に、おじさんは姿勢を正して少しつまらなさそうに言った。




「『おじさん』じゃなくて『和也』って呼んでって約束したじゃんか~」




「そんな約束しました?」




「拓、結芽ちゃんってテストの点数悪いだろ」




「まぁ、俺の方が若干上位?」




「…そりゃ一大事だな」




「和っ!拓っ!」




おばさんの2回目になる一喝。




「拓、お前自分の彼女けなすなよ~」




「おい、おっさん…そりゃ無いっしょ…」




「おっさん言うな。タバコ吸ってんの匿名で学校にバラすぞ」




もうあたしは呆然。




どうしてあの会話からここまで話が膨らむのか




どうしてこの2人はこんなに性格が似ているのか……


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