第三十八時限目
翌朝、深い眠りに就いていたあたしは誰かの叫び声で目を覚ました。
「結芽ちゃんっ!」
「んがっ…」
「ぶっ(笑)結芽ちゃん、今鼻鳴ったっ!」
「いいからっ!早く起こしなよっ!」
目は開かずとも、自然と耳に入ってくる男女の声。
(誰だろ?…まさかっ、おじさん達!?)
カーテンの隙間から差し込む光を微かに浴び、あたしはムクッと起き上がった。
「おっはよ~!」
「……桂太君っ、菜緒っ!」
「結芽…その寝顔はマズイ」
「へ?何で?」
桂太君と菜緒が顔を合わせ、一生懸命笑いを堪えながら言った。
「結芽ちゃん…たまに目が昇天すんのな(笑)」
「…昇天?」
「急にカッと白眼になるのっ!おまけにブタっ鼻になるし…結芽、あんた女でしょ!?」
朝っぱらから菜緒に叱られたあたしは、ふと思い出し隣りを見た。
「あれ…?拓…は?」
(朝方1回目を覚ました時は爆睡してたのに…)
「拓なら1階にいるよ」
桂太君が部屋のカーテンを開けながらあたしに言う。
「1階?あ、トイレ?」
「違う違う(笑)朝飯作ってんだよ」
「……朝ご飯っ!?」
あたしはあまりの驚きに声を張り上げてしまった。
「拓がっ!?」
「そう!あたし達が来た時には、もう拓は起きてたよ?」
「…今何時!?」
あたしは部屋に飾られてある時計に目をやる。
「じっ、10時っ!?」
「ホラ、下行くよ!今日はボーリングに行くんだからっ」
「ボーリング?」
「拓がさ、やりたいんだって!」
「そ、そうなんだ…?」
あたしがやっとの事でベットから立ち上がり、テーブルの上にあった飲みかけのジュースに手をやった時…
「おいコラ、そこのバカ女」
部屋の入口方面から、何やらとてつもなく不機嫌そうな声が聞こえて来た。
「あ。拓…君おはよ~…?」
「とにかく下来て朝飯食え」
「…はい」
怒りオーラを激しく放っている拓を先頭に、あたしと菜緒達は急いで階段を降り、リビングへと向かった。
「あ、ちょっと先に座ってて」
「結芽ちゃんどうしたの?」
「ハハハ…こんな格好で朝ご飯食べたくないから…」
こうしてあたしは洗面所を借り、ぐちゃぐちゃな顔と髪を洗い素顔丸出しの状態で皆がいる場所へと戻った。
「ごめんごめんっ」
「……どちら様?」
拓が怪訝そうな表情であたしに言う。
「は?何が?」
「なぁ桂太、こちらはどなた?」
「お前…辞めとけよ。結芽ちゃんだろーが」
「結芽…?」
拓が目を細目、ジリジリとあたしに近寄る。
「な、何っ…」
「ちょっとお願いあんだけど」
「何っ!?」
「『余は満足でおじゃる』って言ってみてくんね?」
拓の発言に桂太君と菜緒の肩が微妙に震えている。
「はぁっ!?何でよっ!」
「だってお前…眉毛が麿だぜ!?バカ殿かよっ!」
「仕方ないじゃんっ!化粧道具持って来てないんだからっ!」
あたしは両手で隠す程も無い眉毛を覆う。
「結芽、あたしが貸してあげるから…でもそんなに化粧する前と顔変わってないけど?」
「そっ、そうだよねっ!?」
眉毛を抑えたまま椅子に腰を下ろすあたしに、拓がパンを差し出しながら言った。
「は~い。では朝飯を食う前にご報告しまぁす」
「何だよ!?……あっ、まさかっ!」
「桂太っ!静かにっ!」
菜緒に注意をされ、ニヤニヤしながら姿勢を正す桂太君。
「ちょっと拓っ…」
(まさか夕べの話…)
「結芽も黙って!」
「でもね菜緒っ…」
「じゃ、発表しま~す」
朝食のメニューはパンに目玉焼きにハム。
珍しく空腹で今にも飛び付きたいあたしをよそに、拓は軽く咳払いをして口を開いた。
「はい。結芽さん寝ながら屁をこきました~」
「…は?」
「あ、ちなみに昨夜は一線越えるの失敗で~す。イエイッ」
拓の異常なテンションに、あたし達は呆然。
「結芽ちゃん…したの?」
「え…何を?」
「だから…」
言葉を濁す桂太君を振り切るかの様に、拓が目を見開いて喋り出す。
「したしたっ!しかも微妙に長ぇ~の!」
「結芽…あんた…」
「え゛っ、あたししてないっ!菜緒信じて!?」
「あんた達、昨日の夜何してたの?」
菜緒がパンを口に頬張りながらあたしと拓に問いかける。
「な、何って…」
「いや~いい所まで行ったんだけどさ、何故か途中から『息止め合戦』始まっちゃって…」
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