第三十七時限目
『酷いっ!!』とその女の子は人目も憚らず、学校の廊下中に響き渡る声で泣き崩れた。
野次馬達は拓を責め、何故か先生からも注意された拓は仕方なくその女の子と付き合う事にしたそうな。
それなのに、その2週間後…
『飽きた』と言う言葉を理由に、拓はその女の子に捨てられたらしい。
男友達とその彼女は平謝りだったらしいが、拓にとっては『初めての彼女』。
悲し泣きでは無く、悔し泣きをしたらしい…
(何か…ちょっと拓が可哀想かも…)
魂が抜けた様に一点を見つめる拓の頭を、あたしは優しく撫でた。
「でもさ、その女の子にとっての2週間は本気で拓を好きだったんだと思うよ?」
「随分と短い本気だな」
「ホラ、人の気持ちって変わる事もあるから…」
慰めのつもりで言った言葉が、どうやら拓の地雷を踏んでしまったらしい。
「あ゛―そうですか」
「え゛、あたしの気持ちは変わらないよっ!?」
「説得力ねぇ~」
「だから違うってば!」
拓がフッと笑いながらベットへと移動し、横になる。
「あながち嘘じゃねぇしな」
「え?」
「俺の母親とお前の親父だって気持ちが変わったから掛け落ちなんてしたんだろ」
忘れ掛けていたあたしと拓の家庭事情
「迷惑掛けたな」
「…何で?」
「誘惑したの、俺の母親らしいからさ」
「そんな事無いよっ?」
「お前…父親居なくて寂しかったんじゃねぇのか?」
あたしは最低
拓の口からこんな事を言わせて
責任が無い拓に謝らせてしまった
悪いのは拓じゃない
悪いのは…
悪いのは、いつまでもグチグチと父親の面影を探していたあたしなのに…
「俺が謝ってもお前は何も満たされねぇよな…」
拓の声
それはそれは本当に消えそうな程のかすれた声で、あたしはそんな拓が凄く愛おしく感じた。
「拓?」
「何?」
「本当に大好き」
立ち上がり、あたしは拓のいるベットへと座る。
「…い、今がチャンスだよ」
「へ?」
状況が把握出来ず、拓が上半身を起こす。
「や、やっぱり今の言葉撤回っ!」
「……」
(わ~恥ずかしい~…)
あたしの顔は火傷寸前。
「あっ、あの、ちょっとトイレに…」
気まずい空気に耐えられず、トイレを口実に頭を冷やして来ようと立ち上がったその時…
「撤回なんて出来る訳ねぇだろ」
拓があたしの腕を掴み、そのままベットの上に引き寄せられた。
「逃げるなら今のうちだけど?」
仰向けに寝転がるあたしの髪に、拓が優しくキスをする。
「あ、あたし汗臭いかも…」
「俺なんか今汗ダクダク」
「窓っ、窓開けよっか」
「もうじらすのは終わり」
未経験とは思えない拓の行動に、あたしはどんどん吸い込まれて行く。
「結芽」
「ん?」
「すんげぇ大好き」
「…うん」
「結芽は?」
拓の口から伝わる、タバコの苦味とほのかな香り。
「あたしも…」
「ん?」
「あたしもすんげぇ大好き」
「真似すんな(笑)」
嬉しさと恥ずかしさと不安とが混ざったあたしの初体験
きっと拓も同じだったんだと思う
大好きな人とだから出来る事
大好きな人だからこそ全てをさらけ出せる事…
そんな大事な事を教えてくれた『拓』とゆうこの世にたった1人しかいない存在を
あたしは心から大切にしたいと強く思った。
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