第三十六時限目

ベットに座っていたあたしは、拓にそのまま後ろへと倒される。




「こ、こんなの違くないっ!?」




「いや?手順は合ってるけど」




「そうじゃなくてっ…、とりあえず手を離して!」




あたしは拓に掴まれていた両手を振りほどき、直ぐ様体勢を立て直した。




「何盛ってんのよっ!」




「や、普通こんな状況なら彼氏はみんな俺と同じ事するね」




「……」




きっと拓が言ってる事はごもっともな意見




ドラマやマンガ、それに彼氏がいる友達の話を聞いていても、殆どの女の子は男の子に身を任せていた。




「ねぇ結芽ちゃん」




「…何」




「もしかして…初めて?」




ある程度暗闇にも慣れ、至近距離にある拓のニヤついた顔がぼんやりと見える。




「バ、バカじゃないのっ!?信じらんないっ」




「ははぁ~ん。そうかそうか…分かるよ、その気持ち」



(何1人で納得しちゃってんのよ…)




「それより電気付けよ」




あたしは立ち上がり、手探りでドア付近のスイッチを探す。




「付けんなよ」




「もういいじゃ……」




「俺も初めてだからさっ…!!」





拓の発言にあたしは自分の耳を疑った。




拓が…




このエロ魔人拓が…




未経験っ…!?




「…今日エイプリルフールと違うよ?」




「ふんっ…笑いたきゃ笑えっ」




拓が立ち上がり、両手で髪を掻き立てる。




「え、だって拓すごいエロいじゃない?」




「今は本やビデオが普及してますからね」




「………本当に!?」



どうしても信じられないでいるあたしの元に拓が近寄る。




「だからっ!ファーストキスは真壁だったけど、女ではお前が初めてなんだよっ」




あたしの手を取り、拓が自分の胸に当てた。



(わ…あたしより心臓の動きが早い…)




「じゃぁ、もしかして付き合うのも…」




「それはお前が初めてじゃねぇけど…」




(そっか…そうだよね)



あたし達は高校2年生




拓にだって恋愛経験の1つや2つあったっておかしくない




(あたしは何をショック受けてんだ?)




「お前はしたのかよ」



「え?」




「尚太とキス」




あたしは物覚えの悪い拓が『尚太』の存在を覚えていた事にビックリ。




「懐かしいね~その名前(笑)」




「そういやユッキもいたなぁ」




「え゛っ!?何で知ってんの!?」




『ユッキ』




高校に入ってから、少しだけ付き合った人。



いい人だったのに、結局あたしが尚太への想いを立ち切る事が出来ず別れてしまった。





「お前さ、今まで何人と付き合った?」




拓がテーブルの横に座りタバコに火を付る。



「ちゃんと付き合えたのは…拓含めて2人…かな」




「何だよそれ」




(あ…今の言い方マズかったかな)




「別にもて遊んだって訳じゃ無くて…」




「それも含めて何人だよ」




拓の冷めた声に、あたしは何故か縮こまる。



「…4人だけど…って拓は!?」




電気も付けず、あたし達はカップル特有の『過去に遡り話』が満開。




「俺はお前含めて2人」




「…見かけによらず少ないね」




「アホ、あんなの付き合ったなんて言わねぇよっ」




「……?」




拓の言い分はこうだった。




拓には中学の頃、とっても仲良がいい男の子がいたらしい。




その男の子には中学1年の時から付き合っていた彼女がいて、ある日、




『拓の事を本気で好きな子がいる』と、彼女から1人の女の子を紹介された。




自称、それなりにモテモテだった拓は彼女を作るよりも男友達とワイワイしていた方が楽しい年頃だったらしく、女の子の告白を軽くあしらってしまったらしい。


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