第三十五時限目

「結芽」




「はい?」




「俺の気持ちはこん位」




そう言い、拓が深く深く息を吸った次の瞬間…





「………っ!!」






あたしは頭をガッチリ抑えられ、拓にキスをされた。




「ちょっ…」




「黙って…」




(苦しいんだってば――っ!!)




拓とは、今まで軽く触れる程度のキスはした。




今のこの状態だって正直嫌じゃない




ただ…




2秒以上かかるキスなんて初めてで




情けない事に、あたしは何処で息継ぎをしたらいいのかさっぱり分からなかった。





(さ、酸素…)




限界を感じ、申し訳ないが無理矢理にでも拓から離れようとした時




「本当はこんなんじゃ足りない位だけど…とりあえずこれがお前への気持ちだから」




唇を離し、拓があたしの耳元で咳払いをしながら囁いた。



(な、何なのっ!?こんな事を菜緒や桂太君もしてる訳っ!?)




「結芽?聞いてる?」



あたしに顔を近づける拓。




「うっ、うんうん!聞こえた!」




「次は結芽の番だな」



「………は!?」




あたしは口を開けたまま間近に見える拓の顔を見る。




「結芽は俺の事どれ位好きな訳?」




「どれ位と言われても…」




返答に困り、あたしは横に手と手を最大限に広げた。




「…こ、こん位…?」



「見えねぇ」




キッパリと即答され、今度は縦に手と手を最大限に伸ばしてみる。



「このくら…」




「こっち来いっ…」




苛々したのだろう




拓はあたしの手を掴み、勢い良くベットの上に座らせた。




「お前さ、俺の事嫌いなの?」




ベットに座るあたしの前で膝を付き、拓が言い寄る。




「な、何でっ!?好きだよっ…!?」




「じゃキスして。ってかキスしろ」




至近距離な拓の顔が更に近づけられる。




「言葉だけじゃ不安な時もあんだよ…」




「拓…」




「両想いだって証拠が欲しい」





確かにそう。




言葉と行動が反比例してたら恋愛以外だって成立はしない




拓は今まであたしにそのお手本を見せて来てくれた




『好き』と言う言葉の後には、必ず『形』が付いてきて




その『形』が全てに未熟なあたしを支えてくれている




『拓』とゆう、あたしにとって大きな『形』が……





(恋って難しい…でも…)




「拓?」




「はい」




「あたし、拓が大好きだよ?」




「うん」




「でも、菜緒や桂太君やおじさんおばさん…学校の友達や家族も大好き」




表現下手なあたしはにとって、これが精一杯の言葉。



「ただ、同じ『好き』でも1つだけ違うのは…」




(お願い…声震えないで…)




拓の顔なんか殆ど見れてない




あたしの目に入る物は拓の足とぼんやりとした暗闇だけ。




(照れるなあたし…ちゃんと拓の顔見なきゃ…)




空っぽなはずの頭が、今は何故か石の様に重い




それでもあたしは目の前にいる大好きな人に『形』を伝える為、熱る顔を上げた。





「これが、拓への気持ち」





静かに顔を近づけ、あたしは拓にキスをする。




勿論呼吸なんてしていない




すぐに息苦しくなり、拓から顔を離した瞬間…





「結芽ゴメンっ」




「えっ!?」




「いただきますっ」




「げっ、ち、ちょっとっ!」





今までの恋愛ムードは一変




「カーンっ!」




「何それっ!」




「戦いのゴング」




「はぁっ!?」




「大丈夫!知識は十分あっからさ!」




「バっカじゃないのっ!?」




「悪代官と呼んでくれ」




「信じらんない―――っ!」





必死の思いでしたキス



でも




これで拓が喜んでくれると思ってたあたしがバカだった。






「あ、時間計る?」




「何のだよっ!」





結局振りだしに戻ったあたし達は、これから壮絶な争いをする事となった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る