第三十四時限目
(とりあえず結論だけ言っとこうかな…)
「ごめん。用意して無いの」
「何で?」
「……」
「冗談だよ(笑)ケーキだけで十分ですから」
拓が苦笑しながら立ち上がった。
「何処に行くの?」
「便所」
「下、真っ暗だよ?」
「ここでしろってか(笑)」
「…行ってらっしゃい」
あたしの発言をアホだと思ったのだろう
拓は軽く頭を傾げながら部屋を出た。
(どうしよう…帰るならもう帰らなきゃ…)
あたしは携帯を取り出し、お母さんにメールをするかどう悩んだ。
(拓…1人なんだよね…でも菜緒達にあんな事言われたら…)
「あ゛―――っ!!分かんないよ――っ!」
あたしはベットに仰向けになる。
(今からビデオ借りに行ってビデオ鑑賞会するとか…あるいは今からカラオケ!?あ、でも金太の大冒険は聞きたく無いし…)
色々な策が頭を駆け巡り、あたしの脳みそは破裂寸前。
「あたし考えすぎなのかな…ってかあたしエロい!?」
頭をを冷やす為、窓を開けようとベットから立ち上がった時
拓がトイレから戻って来た。
「…帰んの?」
「へ?あ、違…」
「帰んなよ」
笑みが無い、拓の真面目な顔。
「や、あの…」
「部屋から出さないから」
そう言うと、突然拓が部屋の明かりを消した。
「ちょ、ちょっと…」
「俺は菜緒に言われなくたって結芽を帰すつもり無かったけどね」
部屋の中は少しだけ外の街灯が差し込む程度の明るさ。
「で、電気付けない?」
「アホ」
「え?」
「俺だって男なんだからな」
思わぬアクシデント
(どうしよう…)
鼓動が体全身に響く程緊張していたあたしは、どんな表情をしているのかさえ分からない拓にただ抱き締められいた。
「あ、あの~」
後ろから拓の大きな体で全身を締められ、あたしはなんとか呼吸が出来ている状態。
「あっ!お母さんにメールしとかないと…」
「後にして」
「でも…」
「今は俺の事だけ考えて」
生まれてこの方、こんな言葉はドラマでしか聞いた事が無いあたし。
(マ、マズイよこれは…いつもの拓じゃないし…)
「わ、分かった!分かったからとりあえず電気付けない?」
「やだね」
「今日泊まるからっ」
「電気付けたらこんなセリフ言えねぇっての」
「あ…そっか…」
「納得してんなよ…」
拓が苦笑しながら顎をあたしの頭に乗せた。
「く、暗いね」
「だな。メガネ必要ないじゃん、取れよ」
「わっ……」
暗闇の中、拓は器用にあたしのメガネをスッと外す。
「あっ、メガネメガネっ!」
「お前…それ横山や…」
「え?」
「何でもね…ってかお前喋んなっ」
「何でよっ!?」
「俺は今『男』なんだよっ」
体をくるりと180度回転させられ、拓と向き合う体勢になってしまった。
「結芽」
「な、何っ!?」
あたしの心拍数は急上昇。
「俺さ、多分今が1番幸せ」
「そ、そう…ですか」
「あの時の返事だけど…」
「あの時?」
「ホラ、先輩が電話でお前になりすまして…『あたしの事どれ位好き?』って聞いた返事…」
緊張で頭が真っ白なあたしは必死で脳みそをフル回転させる。
「…あ、はいはい。覚えてます」
「今から返事するからさ…ちゃんと覚えてて」
「…分かった」
拓があたしから離れ、代わりに両手を軽く握る
(『東京ドーム10個分!』とか言うのかな)
あたしは息を飲み、スタンバイ完了
それと同時に、拓も大きな深呼吸をした。
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