第三十三時限目
結芽ちゃん…どうする?」
「……」
「聞いてますか―」
「…近寄るなっ」
「ゲヘへ…」
「ちょっとっ…」
「へ~んしんっ」
「ヤダっ!帰るっ」
「冗談だっての(笑)」
まだまだ知能が幼稚園以下のあたし達は、結局気まずい雰囲気の中ひたすら無言で残りのピザを食べまくった。
「おい」
「……」
「おい、コラ」
桂太君と菜緒が変な気を利かせて帰り、そして急に何を考えたのか、おじさんとおばさんも旅行に出掛けてしまった
時刻はまもなく夜の9時になる。
あたしはトイレに行きたいのも我慢し、ただひたすら『石』となっていた。
「結芽さんよ」
「……」
「目ぇ開けて寝てんのか…?」
拓があたしの顔をまじまじと覗く。
「……」
「あ。」
「……?」
「鼻毛出てる」
「…えっ、嘘!」
「あ、喋った」
「あ」
(くそっ…女の子に鼻毛なんて…出てないよね…?)
「何処、鼻毛」
「眉毛だった~」
「全然位置が違うんですけど…」
「ってかさ、お前喋らなさすぎ」
拓がホッとした様に軽く息を吐いた。
(あ゛――‥、限界っ…)
「トイレ貸して」
「返してね」
「はいはい、返しますよ」
あたしは立ち上がり、ドアノブに手を掛けた。
「あ、おい」
「何?」
「ついでにシャワーでも浴びて来れば?」
「…………はい?」
拓の言葉に、我慢の限界だったものがスーッと引いていく。
「シ、シャワー…?」
「トイレのな」
(…トイレ?)
「あ、ウォシュレットだっけ!?ハイテクだろ~」
自慢気に言う拓の爽やかな笑顔に、あたしは呆然と立ち尽くしていた。
「…早くトイレ行けよ?漏したいの?」
「え?あ、あぁ…行ってきます」
「ったく…お前エロイな」
「はぁ!?普通シャワーなんて言われたらっ…」
「『言われたら』何だよ!?(笑)」
段々と眠りから覚めて来ている拓の中のエロ魔王。
「何言うか忘れた…行って来ます」
「あ、おい」
「ん?」
「トイレ詰まらせんなよ」
「お願いだからいい加減トイレ行かせて…」
次々に喋りまくる拓を部屋に残し、あたしは急いでトイレへ向かい無事用を済ませた。
拓の部屋以外は勿論真っ暗
怖がりなあたしは階段を一段抜かしで掛け上がり、息を切らしながら部屋へと戻った。
「あ゛― 恐かった」
「お前の足音の方が怖いって」
「だって1階真っ暗なんだもん…おじさんとおばさん急に旅行だなんてどうしたんだろうね?」
「さぁ?気ぃ利かしたんじゃないんですかね~」
「会いたかったな…」
「ま、明日の夜には帰って来るんじゃねぇの?」
「そっか…でもさ、本当仲良しなんだね」
「どうだろ?結構喧嘩もしてるけど」
「アハハ(笑)夫婦だもんねっ、喧嘩位するよ」
桂太君と菜緒のカップルはあたしの憧れ
でも、おじさんとおばさんの夫婦もあたしにとっては理想の夫婦像だった。
お洒落で若くて愉快で…でもちゃんと貫禄があるおじさん
綺麗で笑顔が優しくてしっかりしてて…でも何処か温かみのあるおばさん
きっと桂太君と菜緒が夫婦になったら、おじさんとおばさんになるんだろうな…なんて勝手に思い込んでニヤけてしまう程、あたしはこの4人が大好きだった。
「ところでさぁ…」
拓がテレビのリモコンをいじりながらあたしに問い掛ける。
「何!?」
「お前どうすんの?」
「だから何が?」
「ホラ…あの~…、泊まってくのかなぁ?なんて…」
すっかり忘れていた大問題。
「…分かんない」
「分かんないって…」
「だって外泊するってお母さんに言ってないし…」
「…そっか」
拓がつまらなさそうな顔でタバコに火を付ける。
(本当はお母さんにメールすれば泊まれるけど……そういえば、まだ『おめでとう』言ってなかったなぁ)
「拓」
「あ?」
「17歳のお誕生、おめでとう」
「あ、ど~も…」
「何シラケてんの?喜んでよ」
「プレゼントは?」
「プレゼント…あ、桂太君達からは?」
「お前が来る前に渡された」
「どれ?」
「そこの紙袋の中」
ベットの脇に置いてあった紙袋をゴソゴソと開けて見る。
「…あ、キャップ…」
「間違い無く桂太が選んだな。女の裸だぞ…嬉しいけど」
「良かったじゃん(笑)いつでも裸見れて」
「ふん…で?結芽さんは?」
「あたしは…」
『時間が無くて買えなかった』
なんて言ったら拓はどんな反応を示すだろうか。
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