第三十一時限目
「どう?」
「あ、美味い美味い」
「本当っ!?」
「うん」
(良かった~…嬉しいな)
「何が美味しい?」
「スポンジ」
(さすが拓っ!一番頑張った所だよ~)
「モサモサしてて美味い」
「でしょでし………は?」
「ん?」
唖然とするあたしに、拓が笑顔で答えた。
「え?スポンジもっさりしてて美味くね?」
「バカっ…『しっとり』だろ!」
桂太君があたしの顔色を伺いながら拓に言う。
「桂太、お前スポンジちゃんと食った?しっとりはしてねぇだろ」
「結芽っ!あたしは美味しいよ!?」
あたしの目から溢れたものは嬉し涙では無く悔し涙。
それと同時に1度治まった溶岩がまた沸々と湧き上がり、一気に吹き出た怒りは主人公である拓にめがけて舞い落ちた。
「…おい、そこのピカピカ17歳」
「え!?俺?」
拓が人差し指を自分に向け、キョトンとした顔であたしを見る。
「ちょっと結芽っ…」
「菜緒は黙ってて」
「はい…」
嫌な空気が漂う中、約1名だけ状況を全く把握していない奴がいた。
「何!?あ、別にプレゼントとかいらねぇから!」
「拓…結芽ちゃんにマジで謝れって」
桂太君が真顔で拓に言う。
「何で?だから美味いって言ったじゃん」
「とにかく謝れって!」
桂太君の勢いに負けたのか、拓は意外にもすんなり承諾した。
「結芽、ごめんなさい」
「…本当は無理して食べてたんでしょ?」
「してねぇよ」
「悪かったね、モサモサしてて」
「あ!?お前そんな事で機嫌損ねたの?」
呆れ返ったかの様に、拓は小さくため息をついた。
「あのさ、俺にとっての『モサモサ』は褒め言葉なのっ」
「…頭のネジ足りないんじゃないの」
「いーから黙って聞いとけ」
「……」
拓はタバコに火を付け、煙を吐きながらゆっくりと口を開いた。
「俺にとって『しっとり』はバナナだけ!お前が作ったのはバナナか!?」
(…どんな言い訳だよ)
横目で桂太君と菜緒を見ると、2人は下を向いて肩をプルプル震わせている。
「俺は牛乳がすげぇ好きで、牛乳に合うのは『モサモサ』した奴なのっ、分かる!?」
「さっぱり分かんな…」
突然、菜緒が足であたしの膝をつついて来た。
(…分かったよ)
「…何となくだけど…分かる」
「だろ!?」
「本当に何となくね」
勝ち誇った様に片膝を立て、『しっとり』と『モサモサ』の違いを語る17歳になりたての青年を見て、あたしは段々怒っていた自分がアホらしくなって来ていた。
「もういいよ、来年の誕生日は牛でもプレゼントするね」
「そりゃどうも」
大人気ないあたしと拓
きっと菜緒と桂太君がいなかったら、もっとヒートアップしてただろう
きっとこの2人だから
菜緒と桂太君がいてくれるから、あたし達は今こうしていられるのかもしれない。
「はいはい、結芽も拓もそこまでね!…ってか今更だけど、結芽何でメガネなの?」
菜緒がメガネのレンズをつつきながらあたしに言った。
「コンタクト落としちゃったの」
「いつ?」
「昨日…」
あたし達は冷えきったピザやお菓子に手を伸ばし、空腹を満たしながら喋り続ける。
「結芽ちゃんのメガネ姿初めて見た~」
「違和感あるでしょ(笑)」
「全然?知的っぽいよ!」
(桂太君は優しいなぁ)
穏やかな桂太君の笑顔を、隣で嬉しそうに笑う菜緒
そんな2人を見て、あたしはなんだか顔がほころんでしまった。
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