第二十九時限目

「遅れてごめんなさいっ!」




拓の部屋に入るなり、あたしは両手を合わせて3人に謝った。




「もしかして、結芽ちゃん集合時間聞き違えてた?」




桂太君が小さくなっていたあたしに優しくフォローを入れてくれる。



「ううん、違うの。ちょっと色々あって…」



「結芽が遅いから拓にバレちゃったじゃん」



菜緒がつまらなさそうにため息をついた。




「ご、ごめん」




「で?結芽がこんなに遅れた理由は?」




「菜緒、もういいじゃん」




「桂太は結芽に甘いっ!」




「甘いって言われても…なぁ?拓」




「まぁ、ちゃんとケーキ作って来たみたいだし…」




拓がチラッとケーキの箱を見る。




「あ、うん。ちゃんと作ったけど…でもどうしてバレた…のかな?」



「これよ、こ・れ・」



菜緒がテーブルの上に置いてあるピザを指差した。




「…ピザ?」




「5時にピザの宅配を 予約してたのっ!」




「…うん?」




「ピザだよ?ピザ!いくらバカな拓でもこんなもてなしを受けたら勘付くじゃんっ!」




菜緒の言葉にすかさず拓が反論する。




「あのな、お前等がコンビニ以外で何か奢るなんてよっぽどの事だろ―がっ!」




「あ!?お前いつも俺に学校でパンねだってんじゃね―か」




「値段が違うっての!千円以上の品物なんて今まで買って貰った事ねぇぞ!」




「ちょ、ちょっと!もう分かったから…本当に遅れてごめんなさい」




部屋の入り口で立ち尽くすあたしを、菜緒が腕を無理矢理引っ張って拓の隣に座らせた。



「彼女のあんたが居なくちゃ拓が可哀想でしょっ」




「ごめん…」




「本当は事故にでも…なんて皆心配してたんだよ?」




「そうなの?」




「こんなに汗かいて……お疲れ様」




「菜緒…」




女同士の友情に浸っていると、突然部屋の中に何かが破裂する音が響き渡った。




「うわっ!な、何!?」




桂太君がニンマリ笑う。



「クラッカー!!さっ、冷めたピザと結芽ちゃんお手製バースデーケーキで誕生日会するぞっ!」





時刻は予定より大幅に遅れた午後7時過ぎ




桂太君の何処に忍ばせていたのか分からないクラッカーを合図に、今日、17歳の記念日を迎える松澤拓の誕生日を開始する事にした。



「じゃぁさ、早速結芽のケーキをお披露目しようよっ!」




菜緒が、コンビニから購入して来たと思われるお菓子やジュースを次々にテーブルの上に並べながら言った。




「拓~、結芽ちゃんの愛が詰まってんぞ~?」




「結芽、お前本当に作ったのかよ?」




拓が横目であたしを見る。




「100%手作りっ!とりあえず食べてから文句言って」




「そうだよ拓っ!結芽はあんたの為に頑張ったんだから」




「じゃぁいい!?ケーキ登場―っ!!」




正直、1番最初に作ったケーキが1番上手く出来てた




多分、何もかも全て本の通りに作ったから




でも、作った人間と気持ちは同じ。




だから、きっと拓は喜んでくれるはず…





「拓っ、ホラあんたのケーキだよっ」




「…お、おぉ」




皆がケーキの箱に注目する中、その物体は姿を現した。



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