第二十七時限目

そして朝。




あたしはいつもの如くお母さんの声で目を覚ました。




「結芽―っ、早く下りて来なさ―いっ!」




「…はぁ~い」




まだ起き切れてない目を擦り、ヨタヨタとあたしはリビングへと向かった。




「…おはよ」




「おはよう。ホラ、パン位食べて行きなさい」




「ん―…」




お母さんに促され、あたしはイスに座り食卓に並べられている朝食に目をやる。




その時




あたしはある物に目が止まり、目が一気に覚めたと同時に全身の血の気が引いた。





(…え?)




「ねぇ…これ…」




あたしが指差す物をお母さんが見てニッコリと笑う。




「あぁ、ケーキ?お母さん甘いの食べたかったのよぉ~じいちゃんもさっき美味しいって食べてたわよ!?」



目の前には、あたしが徹夜で拓の為に作ったケーキが綺麗に切り分けられている。




「…何で食べたの?」



「え?だってあんたごくたまに『気まぐれ』とか言って作ったりしてたから今回もてっきり…」




「これは気まぐれなんかじゃ無いのっ!バースデーケーキなのっ!」




あたしの怒鳴り声に、お母さんの肩がビクッとした。




「ご、ごめんね…知らなくて…」




「…もういいよ」




「お金あげるから買ったら…?」




「それじゃ意味無いんだよっ」




あたしが凄い剣幕で怒った為、お母さんは体を小さくして自分の部屋へ上がって行ってしまった。




(言い過ぎちゃった…箱に入れておかなかったあたしだって悪いもんね…)




あたしは軽くパンを口にした後、身だしなみを整え、制服に着替えた。




お母さんの部屋は廊下を挟んですぐ隣。




「…行ってきまぁす」



「……」




「あのさ、よく考えたらあんまりいい出来じゃ無かったから反対に食べてくれて良かったかも。だから気にしないでねっ!?…行ってきま~す」




(ちゃんと聞いてたかな)




お母さんの部屋のドアに口を近付けて言ったあたしは、なんとなく顔を合わせるのが気まずかった為にそそくさと家を出た。





(学校終わったらすぐまた作らなきゃな…)



そして、あたしはいつも通り拓と駅で待ち合わせをし、内心焦る気持ちを無理矢理隠しながらなんとか授業を終えた。




「拓っ、今日あたし用事あるから先に帰るっ!」




「あ!?何用事って?」




「あ、いいからいいからっ!じゃっ!」




「おいっ!!」




拓が呼び止め様とするのを無視し、あたしは自転車にまたがり一目散に学校を後にした。



(プレゼントも買わなきゃいけないから急がなくちゃっ…)




家までの道のりを終始立ちこぎで走り続け、汗だくの状態で台所に立ちケーキ作りを開始した。




(卵、卵は…)




「…昨日使い切ったんだった」




あたしは急いでスーパーへと自転車をこぐ。



(落ち着け~、これで失敗したら元も子も無くなる~)




無事卵を購入し、急いで家に戻りケーキ作りを再開。




「…あ、生クリーム無いじゃん」




「あ゛…焦げた…」




2度の失敗を繰り返し、なんとか見れる程度に完成したバースデーケーキを作り終えた頃、時間は既にもう4時過ぎ。




「やばいっ!プレゼントっ!」




髪の毛はボサボサで体中は汗だくのあたし




(しょうがないよね…このまま着替えて街に行こう)




超特急で制服から私服に着替えたあたしは、ケーキを箱に押し込み慌てて街へと向かった。



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