第二十五時限目

「どうだった?」




顔をしかめた敦子先輩が、申し訳なさそうにあたしに聞く。




「最後は別人の様に素直だったけど」




「会社では常にペコペコしてるから、せめて結芽達の前だけででも先輩面したいんじゃない?」




「…そんなもんかね…」




(あっくんって強い者にはとことん媚るタイプっぽいな…)





「おい」




「へ?」




イスに座り、携帯をバックにしまっていると拓が少し不機嫌そうな顔であたしの隣に腰を下ろした。




「今の誰?」




「あっくん」




「あっくん!?…な~んだ…」




「……?」




ぶう垂れてた顔が、みるみるうちに笑顔に変わった。




「霧島だと思ったぁ…あいつ狙った獲物は何が何でも逃がさないっぽいからな」



「そ、そう!?」




「いつもヘラヘラ笑ってる奴に限って、夜中の2時になると頭にローソク挿して神社行くんだよ」




「変態じゃん」




「…俺、髪の毛抜かれてねぇよな…?」




「…絶対テレビの見すぎだよ」





無駄な心配をしていた拓見て、あたしと敦子先輩は苦笑い。




「あ~、今日は珍しくいい天気だな」




「だね。なんか公園からはちびっこ達の雄叫び聞こえるし(笑)」




「結芽も混ざって来れば?」




「…将来保母さんってのもいいな」




「「絶対無理っ」」




拓と敦子先輩が目を閉じて首を横に振り、綺麗に声を揃えて言った。





「お前は絶対子供にいびられる」




「そうそうっ!一緒にハシャギすぎてベテラン先生に怒られるタイプだよね」




「…人の夢、全否定だね…」




「いいじゃん、結芽の将来の夢は『拓のお嫁さん』で」




敦子先輩の大胆な発言に、あたしと拓は息を飲んだ。




「あんた達結婚するんでしょ?」




「ちょっとあっちゃんっ…」




「拓、どうなの?」




両手をズボンのポケットに突っ込み、キョトンと立ち尽くしている拓に敦子先輩が迫る。



「ちゃんと結芽捕まえとかないと、誰かに取られるよぉ~?」




「全っ然心配ないね」



拓が自身満々に言い切る。




「どうして?」




「だって…」




拓が急にあたしの肩を引き寄せた。




「これ、俺にベタ惚れだからっ」




(…は?)




「赤い手拭い持って、銭湯行こうな♪」




(え?さだまさし!?神田川は何処なの?)



敦子先輩は大爆笑。




唖然とするあたしに、横でペラペラ喋る拓。



すると、風に乗って学校のチャイムがあたし達3人の耳に届いた。



「あ、3時限目終わった」




「結芽、拓、走るよっ」




先輩があたしのバックを拓に渡し、あたしの手を引いて走り出す。



「おいっ、走んのかよっ!?」




「だって次体育だったら困るもんっ!結芽走れるよね?」




「う、うん」




あたし達は朝来た道を戻らずに、1番近道となる学校の校庭を通る事にした。





「結芽っ」




拓が後ろから叫ぶ。




「何っ!?」




「お前バックに何入ってんだよ!?重てぇんだけど…」




「漫画とお菓子っ」




「何しに学校来てんだよっ!!……後で俺にも漫画貸して」




「こらバカップルっ!ちゃんと走れ!!」





「「はぁ~い」」





次の授業開始まで、あと15分。




あたし達は会話が不可能になる程全力疾走したお陰で、チャイムが鳴る前に各教室に入る事が出来た。


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