第二十一時限目

「あたしが散々結芽達の文句言ってたら催眠に掛ったみたいだよ(笑)」




「…何だかある意味便利な人なんですね」




あたしと敦子先輩は顔を見合わせて笑った。



「…でね、噂なんだけど…」




「カリメロから聞いた。あっちゃんじゃなかったんだね」




「えっ、あっくん自分から暴露しちゃったの!?」




「うん、ドラムも抜けるって…」




先輩がテーブルに顔を伏せ、大きくため息をついた。





「あっくん、多分へこんでるよ」




「は!?何で!?」




「あの人の言葉の後はいつも後悔だらけだからねぇ~」




「だって凄いキレてたよ?」




「多分追い掛けて来ると思ってたんじゃない?」




(…どんな性格だよ)




あの前のあっくんの態度には、桂太君を初めみんなが腹を立てた




新しいドラムも菜緒に決まりつつある。



「…どうすればいいの?」




「…結芽から連絡してくれない?」




「え゛ぇ――っ!!あたしからっ!?」




「お願いっ、多分あっくんからは言いづらいだろうし…でも事の始まりはあたしのせいだし…ほっとけないよ~」




(桂太君達納得してくれるかな~)




「お願いっ!」




「…あっちゃんの為なら…」




半分嫌々ながらも、あたしは敦子先輩との和解の為にしぶしぶ引き受けた。





「拓にも…謝らなきゃね」




「あたしから話そうか?」




敦子先輩が首を横に振る。




「散々迷惑掛けたもん。あたしからちゃんと全部話す」




「そっか」




「2人見てると、何か妬みたくなっちゃってね」




「何だよそれ(笑)」




あたしはバックの中から飲みかけのお茶を取り出した。



「飲む?」




「いい…何か濁ってる…」




「だよね、これいつのお茶か分かんないし」



「捨ててよ…」




その時、あたしの携帯が鳴った。




「誰だろ」




ディスプレイに表示されているのは『拓』の名前。




「誰?」




「ん?あ、いい…」




「何気ぃ使ってんの!?彼氏からでしょ!?」




「……」




あたしは敦子先輩の手前、何故か電話に出れなかった。





「もうっ、貸してっ!」




「あっ、ちょっと!」



バイブと共に鳴り続けるあたしの携帯を奪い、敦子先輩は通話ボタンを押した。





「もしもし?」




いつもより少しトーンが高めの敦子先輩の声。




(やっぱりまだ拓の事…)




2人の会話のやりとりにあたしは耳を澄ませる。



「え?あたし!?結芽だよっ」




(え?)




「あっちゃんがあたしの電話に出る訳ないじゃ~ん」




(…は?何やってんの?)




「ちょっとあっちゃんっ…!!」




意味不明な行動をし始めた敦子先輩から携帯を奪おうとすると、先輩はバックの中から棒付きのキャンディーをあたしに渡した。




「何これ?」




あたしが問うと、敦子先輩は携帯の下部を手で押さえ満面の笑顔で言った。





「あたしに任せてっ!」




「だから何が!?」




「肝心な所は結芽に渡すからっ!」




「…変な事しないでよ?」




不安なあたしをよそに目を輝かせながら『竹内結芽』に成りすました敦子先輩と、そしてアホな事に敦子先輩をあたしだと簡単に信じた拓との『詐欺電話』が始まった。



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