第二十時限目
「ちょっと結芽っ…もう泣かないのっ」
あたしは涙を手の甲でゴシゴシ拭う。
「何であたしが結芽を慰めんのよ~!普通逆でしょ!?」
「だっ、だって…あたしいつもあっちゃんに助けられて来たのに…」
「…あたし酷い事しまくったじゃん」
「当然の仕打ちだよ。あっちゃんから拓奪ったし…」
「でもさ、結芽はどんなに酷い事されてもあたしの事見捨てなかったよね」
「だって…昔からあっちゃんを知ってるから…」
あたしは一息付き、顔を上げた。
「………結芽」
「何?」
「黒い涙になってる…」
「あ゛」
バックの中から鏡を取り出し、自分の顔を確認した。
「本当だ~凄~い」
「とりあえず直しなよ」
「うん、でもメイク道具無いし」
「はぁっ!?」
「エヘヘ…」
ため息をついた後、敦子先輩が自分のバックの中から少し大きめの化粧ポーチを取り出した。
「ホラ、貸してあげる」
「…これ全部メイク道具!?」
「そうだけど…」
「…デーモン小暮でも目指してるの?」
「い―から早く直せっ!」
数多くあるメイク道具の中、あたしはファンデーションとマスカラを借り、すぐ側にある休憩所へと走った。
(あ、ジュースでも飲もうかな…あっちゃんもきっと喉渇いてるよね)
バックをあさり、財布から小銭を取り出そうとした時
一瞬凄い勢いの風が公園の砂を巻き上げた。
「わっ、目にゴミ入った…」
その場に立ち止まり、ゴロゴロする目を必死に擦る。
「結芽っ、どうしたの!?」
後ろから、敦子先輩が小走りであたしの元へやって来た。
(…あれ?)
「大丈夫?」
「あっちゃん」
「何?」
「片目…コンタクト無い」
「えぇっ!?」
あたしはかなり視力が悪い
よく視力検査で行われる『С』の穴の向き
あたしは1番上にある穴の向きさえ、目を細めないと見えない。
「ちょっと…大丈夫?」
「あ、いーよいーよ(笑)探すの面倒だし、丁度コンタクト買い換えなきゃいけなかったから」
「え…でも片目だけで大丈夫?」
「うん、だからもう片方も外す~」
両目で見る景色は全て輪郭がハッキリしない未知な世界。
「とりあえず顔だけ直してくるね」
「あたしも行くよっ」
自信無さげに歩くあたしを、敦子先輩は後ろから見守る様な形で休憩所へとゆっくり向かった。
それから、あたしはぐちゃぐちゃの顔を修正しながら敦子先輩と今までの行動を懺悔し合った。
「あっちゃん」
「ん?」
「ごめんね」
「何が?」
「拓の事…」
ぼんやりとする視力の中、あたしは必死に先輩の顔を見る。
「…睨まないでよ」
「睨んでないよ(笑)」
「…拓の事は…本当はあたしが悪いから」
敦子先輩が苦笑いした。
「拓が随分前から結芽の事好きだってあたし知ってたし」
「そうなの!?」
「あんたが拓を好きだって事もね」
ポーチから櫛を取り出し、優しくあたしの髪を整えてくれる。
「あっちゃん…」
「ごめんね結芽。あたし霧島君を使ってまで酷い事しようとしてた」
優しい口調の中、今にも泣いてしまいそうな先輩の声。
「…何で霧島君だったの?」
「結芽の事気に入ってたみたいだったから…」
「……」
「でも、『こんなやり方で付き合えてもやっぱり嬉しくない』って途中で辞退されちゃったんだけどね…」
適度にメイクを終わらせ、一生懸命今までの事を打ち明け様としてくれている敦子先輩へと体の向きを変えた。
「…あっくんにも何か言われたでしょ?」
「……」
「隠さなくていいよ」
あたしはただ黙って頷く。
「あっくんあたしの事好きみたいだからね(笑)」
「…なんとなくわかってた」
「奴はあたしが『結芽キライ』って言えば『俺もキライ』って言うタイプだから」
(…だからあんなに態度が急変してたんだ)
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