第二十二時限目

「ねぇ、拓はあたしの事どれ位好き?」




初っぱなからの大胆な質問に、キャンディーをかじろうとしていたあたしは間違ってほっぺの内側を噛んでしまった。




(あたしそんな質問しないし…ってか拓も気付いてよ…)





痛さのあまり、顔をしかめながらあたしは敦子先輩を睨む。




「え?あたし?だから結芽だってば!」




(そうそう…その結芽はあたしじゃないよ~)




敦子先輩曰く、あたしの声はどうやら声のトーンを高くして半笑い状態で話せば大抵の女の子は真似が出来る声らしい。




事の発端は部活での練習中…




あたしは何を思ったのか、田村を『お母さん』と呼んでしまった




拓を初め、一生懸命に練習していた中で発せられたパイナップル田村への『お母さん』発言。




勿論その後は大爆笑のまま練習が終了。



その日の帰り道、敦子先輩達は案の定『お母さん』発言をしたあたしの声真似大会。




男子は何故か審査員。



そして、そんなくだらない大会の優勝者に輝いたのが、元々声の質が似ていた敦子先輩だった。





(あっちゃんもさ、こんな事する前に大事な話があるんじゃ…)




いつも氷や飴は舐める事なく素早く噛み砕く性分のあたし。




今回のキャンディーもあっという間に平らげ、手持ちぶさたになってしまったあたしはとりあえず敦子先輩が持つ携帯へと耳を当ててみた。




「なぁ~んか声がアホっぽくねぇんだよな~」




(…何て言った今?)




敦子先輩が苦笑しながら更にあたしになりすます。




「拓酷い…充分アホな声してるじゃん…」




(え?そこであたし否定しないの!?)



「そうか…?ってか早く戻って来いよっ」




「拓が答えたら戻るからっ」




「あ゛ー…、分かったよ」





(ばか拓っ…あたしとあっちゃんの声の区別も出来ないの!?)




本当はこんな状態で言われたくなんかない。




「じゃぁ…」




敦子先輩がニヤニヤしながらあたしに携帯を渡す。




(誕生日祝ってやるの辞めた…)




今度は立場が逆になりあたしが持つ携帯に敦子先輩が耳を当て、拓の言葉に息を飲んだ時…





「じゃそろそろ結芽に代わって?」




拓の言葉にあたしと先輩は顔を見合わせた。




「あれ?お~い」




「…バレてたみたいだね(笑)」




敦子先輩が頭を掻きながらあたしに言う。




「おいっ、放置すんなっ」




「結芽っ、ホラちゃんと喋って!」



「へ?あ、そっか…」



予想外の展開で携帯を耳から離してしまったあたしは、敦子先輩に促され慌てて携帯を耳に当てた。





「…あ、結芽…です」



「…アホ」




拓が呆れた声であたしに言う。




「敦子先輩と和解したのかよ?」




「…多分」




「お前ねぇ、俺が君の声を聞き間違えると思う!?」




「だって…間違えてたじゃん」




「先輩に付き合ってやっただけだっつーの」



会話を聞き、敦子先輩があたしにデコピンをした。




「痛っ…」




「あ!?」




「あ、別に…」




すると、拓の背後と同じく公園内にも学校のチャイムが微かに鳴り響いた。





「拓、授業は?」




「あ゛?俺授業出てねぇーし」




「えっ!?」



「学校と公園の中間で待ってんですけど」




「えぇっ!?」




「途中まで尾行しちゃったよ…なはは…」




あたしと敦子先輩は唖然。




「拓っ、今どの辺!?」




あたしは辺りを見渡す。




「ん゛~、じゃ今からそっち行くわ!じゃっ」




「はっ!?あ、ちょっとっ…」




言い返す暇も無く、拓はブチッと電話を切った。





「あんたの事心配だったんだね」




敦子先輩がクスッと笑う。




「違う違うっ!そんなんじゃないよっ」




「拓からしてみれば、あたし酷い女だもんね(笑)」




「だから違うってば!拓はただ授業出たく無かっただけだよ!」




苦し紛れの言い訳。




拓のあたしへの心配は凄く嬉しい。




でも、今回の敦子先輩との話し合いに拓はあまり関わって欲しく無かった。



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