第十八時限目

「ちょっとっ!何すんのっ!?」




敦子先輩が勢い良く掴まれた腕を振りほどく。




「ちっちゃいくせにパワーあんだから…でも負けないぜ~!!」




下駄箱に入る他の生徒の視線を釘付けにしながらも、あたしは敦子先輩の腕が外れる位引っ張りまくり、なんとか拉致に成功した。







「何処行くつもり!?」




「裏の公園っ!今ならまだ誰もいないはずっ」




「あたしを土にでも埋めるつもり?」




「されたいならするけど!?(笑)」





凄く面倒臭そうな先輩の顔




でも、今日を逃したら今度はきっともうない



(何話すか今の内に整理しとかなきゃね)





それからお互いに話しを切り出すことも無く、あたし達は学校のすぐ裏にある公園へ到着した。



「シーソーにでも座る?」




「あたしが浮いたまんまになるし」




「あ、あっちゃん飛んでっちゃうね~(笑)」




「……」




「…素直にブランコにしよっか!」





中途半端に気まずい雰囲気のまま、あたしと敦子先輩は話し合いのシチュエーションには欠かせないブランコに乗る事にした。





「ブランコこいであげよっかっ!?」




「……」




「…あっ、なんなら幼少時代に戻って靴飛ばしなんかしてみちゃう!?」




ヘラヘラ笑うあたしを見て、敦子先輩は眉間に数え切れない程の皺を寄せ、あたしにため息を吐く。





「あのさ…」




「何っ!?」




「笑えない、ウザイ、キモイ。ってか早く本題に入ってくんない?」




冷たい視線に、思わず目を反らしてしまったあたし。




「ま…、どうせ結芽は今日も綺麗事しか言わないんだろうけど」




「…どう思って貰っても構わないから…とりあえず話そうよ」




「…用件まとめて話してよね」




「分かってるよ…」




それから少しの沈黙の後、あたしは意を決して話し始めた。







「あの日…どうして嘘付いたの?」




「あの日?」




「あたしが救急車で運ばれた日…」




「あぁ…」




敦子先輩が足元の土を蹴る。




「なんとなく?(笑)一時の休息を与えたのかな」




「何それ」




「女友達なんて所詮こんなもんじゃない?」




サラッと言われた今の言葉に、あたしは少し腹が立った。




「霧島君から聞いたよ」




「は?何を?」




「…赤ちゃんダメだったって…」



敦子先輩の顔が一瞬歪んだのをあたしは見逃さなかった。




「誰との赤ちゃんなの?」




「……」




「もしかしてなんだけど…あっくん?」




「……」




「…そうなの?」




「な訳ないじゃん」




「じゃ一体…」




拓じゃない




あっくんでも無かった



もう他に思い当たる人なんか…





あたしが言葉を詰まらせていた時、敦子先輩が初めて自分から口を開いた。







「…元彼との子……」




「…え?」




あたしの頭の中からすっかり消えてしまっていた存在。




「元彼って…」




「拓を好きになったからって…あたしから振った奴」




「え…」




「別れた後、1回だけ呼び出されてあいつの家に行ったの。…で、その時に流れで…」




「…しちゃったの?」



いつぶりだろう…?




もしかすると、どうしても勝ちたかった試合でボロ負けした以来かもしれない





あたしはうつ向く敦子先輩の顔から地面に消え落ちる涙を見た。






「あ、あっちゃん…?」



「……」




「あ、あのっ、話たくないなら無理には…」




「あたしアホでしょ…?」




敦子先輩はフッと笑った。




「『これで最後にするから』なんて言葉に乗っちゃった挙げ句、妊娠して赤ちゃんダメにしちゃうなんてね…」



「彼には言ったの?赤ちゃんの事」




先輩が静かに頷く。




「『あれで最後って言ったろ』だって。それ言われたら何も言い返せなくなった」




「そんな…」




大きな深呼吸をした後、敦子先輩はブランコから立ち上がり目の前にある砂場へと歩き出した。



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