第十六時限目

「やっぱ今日はもうお開きにしようぜ」




そう言い、桂太君が自分の配置に戻ろうとした時、




あっくんがスティックを壁にぶん投げた。




「やってらんね」




ドラムを離れ、荷物を抱えて入口へと歩き出す。




(わわわ、ヤバいよっ…)




「あっくんちょっと待って!」




「ガキのお守りは疲れるわ」




「…は?」




桂太君と渉君の顔色が一変する





そして、あっくんは最後に舌打ちを残し、スタジオから出て行った。







「…ガキだって。桂太、ど~よ?」




「知らね」




「…ごめん、あっくんがあんなに機嫌悪いの多分あたしのせい…」



「へ?何で?」




渉君が不思議そうにあたしを見る。




「ちょっと色々あって…」




「まさか、あっくん振ったとか…」




「え―っ!無い無いっ!絶対無いっ」



渉君の発言に、いつも無表情な剛君の眉間に大きな皺が出来た。




「剛君っ、違うからねっ!」




「一瞬結芽さんの趣味疑った」




「剛、こいつは拓っつー3枚目のっ…」




「だ――っ!桂太君うるさいっ」




拓の話となると、いつもはしゃぐ桂太君




あたしは余計な事を言われない様、桂太君の腕を思い切りつまんだ。




「結芽ちゃん」




渉君がニヤ付きながらあたしに近寄る。




「何ですか…」




「彼氏とどこまで済んでるの?」





「……は?」




「桂太、知ってっか?」



「知らないっす(笑)」




ついに本性を現した、渉君の『酒のつまみ話』。




「いつの間にお酒飲んだんですか?」




「ん?各自練習辺りから?」




みんな一斉にため息。



「渉君…練習中に何やってんすか…」




桂太君が渉君の肩を揉みながら言う。




「お前分かってね~なぁ…俺は酒入った時だけ強気になれんだよっ」




「意味分かんないですから(笑)」




「あのカリメロに一言物申してやろうと思ったんだよっ」





(え…?渉君もあっくんの事カリメロって思ってたんだ…)




喜んではいけない事なのに、つい顔がほころんでしまう。





「お前と結芽ちゃんが出掛けてる時なんか最悪だぜ?電話でガハハハ笑ってよ…」




「で?渉君はどうしたんすか?」




「そりゃぁお前…」





「渉君ずっと天井見てたんだよね」





剛君が代弁してくれた。





「「ぶはっ!」」





あたしと桂太君は大笑い。



「渉君、何か見えてたの?(笑)」




「幽体離脱っすよね?(笑)」





「んな訳ねーだろっ!」




鼻の穴を最大に広げ、否定をする渉君。




「いいか?俺は平和主義なんだよっ!」




3人でうんうんと頷く。




「俺は楽しくバンドがやりたいんだよ…だからあっくんはもう外そうぜ…?」




「俺もそう思います」



渉君に続き、剛君もあっくんをドラムから外す事に賛成した。





残るはあたしと桂太君の2人。





「結芽ちゃんどうする?」




「でもさっき円陣組んだばっかだし…」




「バンドとプライベートを分けられないあっくんが悪いだけ、結芽ちゃんは悪くないんだよ?」




「ん~…」




「ドラム候補ならマジでいるし」





「あっくん、本気で抜ける気だったのかな~」




「俺等のお守りに疲れたんでしょ…もうほっとこう?」




渉君と剛君も桂太君の意見に頷く。




「…ちなみに次のドラム候補って誰?」




「菜緒」




「菜緒っ!?」




全く想像してなかった人物に、あたしは顔がひきつった。





「菜緒!?…菜緒ドラム出来るの!?」




「普通に叩けるよ、今夜頼んどく」




(菜緒と…バンド!?)



「桂太、菜緒ってお前の彼女?」




「はい、いっすかね?」





「バッチ来~い!」







結局、残りの時間を話で使ってしまい使用時間はいつもと同じ2時間で終了し、あたし達はスタジオを後にした。







「渉君、運転出来ないっすよね?」




桂太君がうっすらとほっぺが赤い渉君に聞く。



「だね」




「どーすんですか?」


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