第十五時限目
「え゛っ、古っ!!」
「ホラ、早くっ!」
「え、えいえい…おー…?」
「じゃ、行くかっ!」
「あ、はい…」
(桂太君も結構謎だよなぁ…)
あたし達は掛け足でスタジオへと向かう。
「あ、ねぇねぇ結芽ちゃん」
「何?」
「明後日何の日?」
「明後日…?」
あたしは無い頭を振り絞って考えた。
「…分かんない」
「わー…、可哀想に…」
「えっ!?」
「拓の誕生日だよ(笑)」
やっぱりあたしはバカ。
「あ、一瞬忘れた(笑)」
「拓に言っとく~」
「ダメっ!」
『甘える場所』じゃなく『安らげる場所』。
そんな場所が出来たあたしは幸せなんだ…
「「いざっ、出陣!」」
前を向く力を貰ったあたしはそれを胸に刻み、『仲間』が待つスタジオへと階段を下りた。
「うい~っす、今戻りました~」
「お~、結芽ちゃんもお帰り~」
渉君に迎えられ、桂太君に続きあたしも中へと入る。
「遅くなりましたっ」
「あ、い~よい~よ。スタジオ代勿体無ぇけど、今日はもう各自練習らしいから」
そう言いながら、渉君があっくんの方をチラリと見る。
(あれ…何か渉君も機嫌悪い…?)
「渉君具合でも悪いの?」
「全然。気にしないで」
初めて見る渉君の仏頂面。
(そっとしといた方が良さそう)
5人全員が狭い部屋で無言の練習
すると、突然桂太君があっくんの元へ近寄った。
「あっくん」
「何」
スティックをいじり、桂太君の顔すら見ないあっくん。
「今日はもう解散しませんか」
「別にいいけど」
「次のスタジオ日が決まったら連絡下さい。チケットとかは俺作っとくんで…」
「え、俺ライブ出るの?」
あっくんが言い放った今の1言で、みんなの手の動きが止まった。
「俺、抜けようかと思ってたんだけど」
「や、来月ライブあるし今抜けられても…」
引きつった顔で一生懸命あっくんを引き止める桂太君。
「他に誰かいねぇの?桂太、お前音楽部だろ」
「…みんなそれぞれバンド組んでるんで無理っすね」
「じゃ、とりあえず来月のライブは中止すっか!」
(…何それ…)
みんな忙しい時間を調節しながらも、ライブを目標に今まで頑張って来たのに。
渉君なんて、体調が悪くても無理して来てくれてたのに…
(このカリメロ~さすがに許せんっ)
「ちょっ…」
「あっくんもういらない、さっさと抜けていいよ」
あたしを始め、みんな唖然。
黙秘人間の剛君が、突然あっくんに向かって冷静に反抗し始めた。
「雰囲気乱してんの分かんないの?かなり迷惑」
「お、おい剛っ」
渉君が剛君の口を塞ぐ。
部屋の中は驚きと冷や汗で異様な空気。
「つ、剛学校で何かあったのか?」
桂太君が目をパチクリさせながら剛君に聞く。
「桂太、こいつに喋らせんな」
「ってか、渉君その塞ぎ方剛苦しいと思うよ…」
「あ!?」
片手で剛君の首を押さえ、もう片方の手で鼻と口をがっちり押さえている。
「剛、ギブ?」
剛君は渉君をぎろりと睨みながら首を縦に振った。
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