第十四時限目
何となく胸がスッキリしない。
「結芽ちゃん不満?」
「…なんか全部あたしが火付け役だね」
「違う違うっ」
「いや…完全にそうだよ。だってあたしが入らなきゃこんな事には…」
つくづくあたしって存在は疫病神
色々と掻き乱しては誰かを不幸にさせてしまう
(困ったな…)
こんな自分をどうする事も出来てない自分が情けないと改めて思い知らされた。
「他に何か言われたっしょ」
突然、桂太君が真顔であたしに聞いて来た。
「何にも?」
「だって結芽ちゃん泣きそう」
あたしは思わず両目を手で隠す。
「違うよ、あたしドライアイだからコンタクトがズレて…」
「ん~、俺には通用しないよねぇ~」
桂太君が両手で覆うあたしの目を、2本の指で目突きして来た。
「拓にさ~頼まれてんだよね~」
「拓!?」
「『俺が居ない時はお前が保護者になれ』って(笑)」
「何だよそれ…」
拓の名前を聞くだけで胸が温かくなる
こうゆう時、改めて拓への想いが本当である事を実感させられていた。
「で?何て言われたの?」
「……」
「結芽ちゃん」
まだあたしの頭の中でまとまりきれてない問題
きっと今話したら、全部あっくんが悪い様にしか伝える事が出来ない…
「…あたしもよく分かんないや(笑)」
桂太君がタバコの煙を吐くと同時にため息を付く。
「勝手に自分で溜め込んで自爆すんのは無しだよ!?」
「なんないなんないっ」
あたしは未だに両手を目から離せないまま。
「…拓、呼ぶか?」
「呼ばないで」
「だってもう泣くの我慢出来ないっしょ」
「へ?」
「だって…鼻垂れてるもん」
(目と鼻って本当に繋ってんだ…)
涙を堪えてた分、どうやら鼻に回ってしまったらしい
あたしは桂太君に背中を向けて鼻をかんだ。
「拓ならすぐ飛んで来るよ?」
「や、本当いい…」
「じゃぁ泣くなよ…」
桂太君があたしの背中をツンツンとつつく。
「俺は菜緒の事しかギュッてしてやれないんだよね…」
「当たり前じゃんっ」
「で、結芽ちゃんをギュッとしてやれるのは拓しかいないんだよ」
桂太君の言葉に、あたしはただただ頷くだけ。
「あっくんにそんな負け顔さらすの?」
「……」
「今結芽ちゃんのバック持って来るから、拓に来てもらいなよ」
桂太君の好意に素直に甘えたかった
今思えば
昔のあたしはこんなに泣き虫じゃなかった
泣きたくなっても歯をくいしばって、爪が掌に食い込む位力を入れて堪えて…
拓や桂太君達に出会ってから
あたしは『甘える場所』を作ってしまったのかもしれない…
「大丈夫」
あたしは両手を目から離す。
「涙止んだっ、今からスタジオ戻ろっ」
半分以上あるカルピスを一気飲みする。
「大丈夫?」
「帰る理由無いし、あっくんにもドラム続けて貰える様にお願いしてみる」
(頼りすぎちゃダメだ、『甘える場所』を作ってはいけない)
「桂太君、今何時?」
「あ、8時30分…」
「あと1時間、練習しよ!?来月ライブするんでしょっ!?」
驚いた表情をした後、桂太君はニカッとあたしに笑って見せた。
「うしっ!じゃ俺も耐える男になるっ」
「あたしも耐える!」
「はいっ、じゃ2人だけで円陣組むよ~」
桂太君が片手をあたしの前に差し出す。
「え…恥ずかしいよ…」
「すぐ終るからっ」
無理矢理手を引っ張られ、あたしの手と桂太君の手が重なった。
「いくぜぃっ」
「うっ、うん」
「雨にも負けずっ、風にも負けずっ!」
「えっ!?それおかしいよねっ!?」
「エイエイオ――――っ!!」
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