第十三時限目

「ちょっと待って下さいっ」




階段を下りるあっくんの服を引っ張る。




「…何?」




「そうゆう逃げ方ってズルくないですか」




「え?(笑)これってズルいの?」




「あたしの中では卑怯な部類に入りますね」



ここ最近の積もりに積もっていたストレスが解放される。




「じゃ言わせてもらうけどさ」




「何でしょう?」




「結芽ちゃん、あれから敦子と話し合いしたの?」




「……」




「してないんじゃん(笑)」




あっくんがハハッと笑う。





「結芽ちゃんの方が、よっぽど犯罪的なズルさだと思うけど?」







そう




あたしは敦子先輩から拓を奪った女




善人面をしながら、陰で拓をくすぶってた女…



「…あっちゃんとは必ず話すつもりです」




「避けられてんのに?」




「…何で知ってるんですか?」




「敦子言ってたし」




「……」




(やっぱりあっちゃんあたしの顔見たくないんだ…)




そんな事は分かりきってるはずなのに、言葉にされた事で胸がズキンと痛む。




「ねぇ、気付いてた?」




あっくんがあたしの顔に近寄る。




「何をですか…」





「結芽ちゃん、自分の親父と同じ事してるよね(笑)」





全身の血の気が引いた。




「あ、あともう1つ」



「……」




「結芽ちゃんに嫌がらせメール送ったり噂流したの、俺の後輩」




「…え!?」




「後輩に頼んだんだよね~。敦子は俺をかばって自分のせいにしてたけど、実は全部俺だよ」



声が出ない




今何を言われたのか分からない





(あっちゃんは悪くないの?何であっくんがそんな事を後輩にさせるの…?)




あたしの頭の中は整理出来ない事だらけでパンク寸前。





「俺、次からドラム辞めるね」




そう言い残し、あっくんの姿はスタジオへと消えて行った。







肌に生温い夜風がフワッと当たる。




「あ゛――、スタジオ戻りづらいな…」





『帰りたい』




ふとあたしの頭にそんな逃げ言葉がよぎる




でもバックや携帯は全部スタジオの中





「…戻るか」




石の様に重い足を引きずり、あたしがスタジオへと繋がる階段を下り始めた時…





「結芽ちゃん」






桂太君がスタジオから出てきた。




「桂太君…」




「ジュース買うの付き合ってくんない?」




「え、う、うんいいよ」




スタジオからコンビニまで歩いて5分。




「結芽ちゃん何飲む?」




「あ、あたし財布無いからいい」




「俺ドケチじゃないよ~(笑)」




「……じゃカルピスいいかな?」




「今の季節にカルピス合うよね」




「…そうかな(笑)」




桂太君がポカリとカルピスを取り、レジへと向かった。





「あれ?他のみんなのは?」




「え?無いよ?」




「え!?何で!?駄目だよっ!」




店員にお金を払い、桂太君が外へと歩き出す。




「みんな飲みたがるよねぇ」




「うん」




「じゃぁ、飲み終わるまで外で話そっか!」



「そんな事して大丈夫なの?」



「大丈夫、今日はもう各自練習にしたから」



コンビニの外の壁に寄り掛り、あたしと桂太君はジュースを片手に話し始めた。







「結芽ちゃ~ん」




「ん?」




「あっくんに何言われた?」




「え?」




「あっくんスッキリした顔して戻って来たから」




「……」




ちょっとだけ誇らしそうにほくそ笑むあっくんの顔




何となく想像が出来た。




「…ドラム辞めるって」




「…ふ~ん」




「びっくりしないの!?」




「渉君とか大体予想してたし、別にいんじゃない?」




桂太君がタバコに火を付ける。




「でも、あっくん抜けちゃったらバンド…」



「実は既に代わりは見つけてあるんだよね~」




「えっ、そうなの!?」




「うん」


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