第十二時限目
7月頭
あたしは今日の夜も、GWから活動を再開し始めたバンドの練習に励んでいた。
2週間に1回はスタジオを借りての練習
バイトを辞めてしまったあたしは、小さい頃からコツコツと貯めていた『お年玉貯金』を切り崩し、なんとかバンドを続けられていた。
「桂太、ちゃんと俺のドラムに合わせろ」
「結芽ちゃんそのフレーズ2番目の奴、しっかりして」
敦子先輩との言い合い事件以来、あっくんはあたしと桂太君に冷めた態度を取る様になった。
「や、ってか今のはあっくんのリズムが早かったよね?」
桂太君も何かと反抗する。
「ってかさ、桂太、ちゃんと家で練習して来てるか?」
「してますけど」
「進歩してねぇ」
「……」
あっくんと桂太君の間に流れる冷たい空気にあたしと渉君はどうしたらいいのか頭を悩ませていた。
「…な、何だか最近みんな疲れてるよね~ね?渉君?」
「へ?あ、あぁ…だよなぁ~…な?剛?」
あたしと渉君は最年少の剛君に助け船を出す。
「俺は元気」
いつもマイペースの剛君
「わ、渉君っ!剛君は多分普通じゃないんだよねっ!」
「お前何気に今の失礼だな…な?剛」
「いや、結構嬉しいし」
「「嬉しいんかいっ」」
ちょっとだけ落ちを用いた会話を終え、あたし達は桂太君とあっくんの方を見た。
(ひゃ~…笑う所か聞いてないし…)
桂太君はウォークマンを耳に填め、あっくんは携帯をいじっていた。
(もうっ、こんなの全然楽しくないっ)
「ちょっと!桂太君もあっくんも、今はみんなで練習する時間じゃないの!?」
桂太君は聞こえていないのか、反応を見せず代わりにあっくんが口を開いた。
「結芽ちゃん」
「な、何ですか?」
「ちょっといい?」
「…いいですけど」
あたしとあっくんは桂太君達を残し、スタジオを出た。
外に出るや否や、あっくんがタバコに火を付ける。
「あの…」
「あのさ」
あたしの言葉を遮る様にあっくんが話し出す。
「あのさ…俺ドラム抜けてい?」
「…えっ!?」
「何かさ、正直やっててもイライラばっかだし」
「……」
「それにさ、桂太…あいつ俺に口答えしすぎ」
あたしは今の言葉にカチンと来た。
「…そうかな」
「ほらね」
「え?」
「結芽ちゃんはいつもそうやって桂太の肩ばっか持つし」
「全然そんなつもり無いですけど」
「仲間意識強すぎ(笑)」
バカにした様に、あっくんは鼻で笑った。
「あたしから見ればあっくんの方からいつも桂太君にケンカ売ってる気がしますけど」
「そうかな…」
「勿論桂太君の言い方が悪い時もあるけど、あっくんは上から目線で物事を言い過ぎだと思います」
勢いのあまり、思っていた事をそのまんま言葉にしてしまったあたし。
(…ヤバイ、年上に生意気な口聞いてしまった…)
あっくんはタバコを吸ったままそっぽを向いたっきり。
「あっ、あのぉ~」
「…あいつの気持ち、マジ分かるわ」
「え?」
「敦子。あいつが結芽ちゃんをムカツク理由」
吸っていたタバコを足で踏み潰し、あっくんはあたしを残してスタジオに戻ろうとした。
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