第七時限目

「拓が幼稚園の時、母親の居場所が分かったんだ」




「もしかして…」




「大丈夫。結芽ちゃんのお父さんとはとっくに別れて、自分の実家…富山県にいたんだ」



「富山…」





勿論聞いた事がある県名




行った事は無いけど、親戚のおじさんが『酒がうまい』と言っていたのは覚えている。





「弟はさ、まだ拓の母親への想いをふっ切れて無かったみたいで罪を許すべきかどうかずっと俺に相談してたんだよ」




「そう…なんですか…」





「でさ、その年の冬、拓がX'masにサンタクロースに手紙を書いてたんだとさ」




「手紙…?」




拓を見ると、ベットに座りながらぼんやりと一点を見つめていた。




「何て…書いたんですか?」



「『お母さんとお父さんと3人で手を繋いで小学校に行きたいです』って…」





「……」





「それで、拓の父親は俺に拓を預けて富山へと車を走らせたんだよ」







胸が締め付けられた




小さい拓はずっとお母さんに会いたいのを我慢してて




でも、口にしてしまえばお父さんが悲しむんじゃないか…って




そう思ったから、欲しい物を必ず届けてくれるサンタクロースにお願いしたんだよね…?




沢山沢山考えて




欲しいオモチャも我慢して




朝目が覚めたらお母さんがいる様に…




そう願って手紙に想いを託したんだよね…







「それで…お父さんはお母さんに会えたんですか?」




「夜中に飛び出したからな…スピードもかなり出てたみたいだし…」




(拓…今どんな顔してるの…?)




後ろを振り向きたくても何故か体が動かない。






そして




あたしが大きく深呼吸をした次の瞬間…




おじさんが小さな声で言った。








「即死だったんだ」








「……」




静まり返る部屋の中




あたしはやっとの思いで体を拓へ向ける。





「だって…霧島君『植物人間』って…」




「…噂って怖えーだろ…、死んだ奴が生きてる事になってんだぜ」



「どうして否定しなかったの?」




「…どっちみち俺のせいだし」




今にも消えてしまいそうな拓の声。





「拓が悪い訳じゃねぇだろ、あいつの不注意だ」




「ってか親父せっかちじゃね?わざわざ手紙読んですぐ行かなくても…」




「X'mas中までに…お前に会わせたかったんだろ…」




おじさんが拓の隣りに腰を下ろした。





「願いが叶う所か親父まで居なくなってるし」





「拓」




「あ゛~っ!分かってるよっ、もう言わねぇって」





そう言うと、拓が部屋の入口へと歩き出した。




「拓っ、何処行くの…!?」




「便所!」




いつもとは違う拓の足取り




(拓、声震えてる…?)



追い掛けたい




でも、何故かこの時は追い掛けてはいけない様な気がした。




「結芽ちゃん」




「え?あ、はい」




「結芽ちゃんは拓の事、好きか!?」




あたしはおじさんの顔をじっと見つめる。





「…好きです」




「そうか(笑)」





おばさんとおじさんが顔を見合わせて笑い合った。




「拓はさ…」




「はい…?」




「拓は俺と美和にとって本当の息子同然なんだよ」




「…はい」




「でも、あいつはまだ何処か俺達に遠慮してる部分があるんだ…11年も一緒に暮らしててだぞ?」



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