ウワサ話に御用心!⑧


 鮫島君からのLIMEは『放課後、裏庭に来い』というものだった。

 

(鮫島君からの呼び出しなんて、珍しいな)


 そう思いつつも、俺は姫奈に『先に帰ってて』と伝えて、裏庭に急いだ。


 桜川中央高校の裏庭は、音楽室の側にあって、放課後は、よく吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。

 とても雰囲気のいい場所だからか、よくここで告白をしてる生徒も見かけるくらいだ。だけど、残念ながら放課後は、不良たちのたまり場になっているため、他の生徒は、あまり寄り付かない。


「あ、鮫島君!」


 校舎の角を曲がると、裏庭で鮫島君が待っているのが見えた。

 俺は、すぐさま鮫島君に声をかけたが、そこには、鮫島君だけでなく、何故か、その他大勢のの姿もあった。


「え……?」


 番長と共に、俺を睨みつけてきた面々に、俺は思わず息をのんだ。


 なんだろうか、この雰囲気は。明らかによくない。だって、みんな目が笑ってないし、肩まで慣らしてる人もいるし。


「矢神! 俺は、お前を許さねぇ!!」


 そして、その瞬間、鬼の形相をした鮫島君が叫んだ。


 あれ? なに、この状況?

 なんか、サンドバッグになる未来しか見えないんだけど!?


 ていうか、鮫島くん! 俺、君とは、それなりに仲良くなれたと思ってたんだ!

 この半年間、一対一で勝負したりして、男の友情を育んできたとおもってたんだ!?


 それが、どうして、こんなことに!?

 

「さ、鮫島君、どうしたの!? 俺、何かした!?」

「何かしたじゃねーだろ! 自分の胸に手を当てて聞いてみろォ!」


 自分の胸に──そういわれ、俺は素直に手を当ててみた。だけど……


 (ど、どうしよう。心当たりが、一切見つからない……!)


 残念ながら、鮫島君を怒らせた原因に、全く心当たりがなかった。


「ご、ごめん。何かしたなら謝る。でも、真面目に心当たりがなくて……っ」

「心当たりがないだぁ!? お前が認めたんだろ!姫奈さんをってなぁ!」

「!!?」


 はいぃ!!?

 一瞬、何を言われたかわからなかった。


 妊娠? 妊娠って言いました!?

 いやいや、何で!? 俺たち妊娠するようなことは、一切してねーよ!?


「ちょ、ちょっと待って! なんで、そんな話に」


「なんでって、昨日『あの噂は本当か』って聞かれて『本当だ』ってお前が答えたんだろ!つまり、姫奈さんと二人で、に行ったってことだよなぁー、夫婦仲良く!」


「えぇぇぇぇ!?」


 産婦人科!?なんで、そんな話に!?

 だが、その瞬間、昨日の大河との会話を思い出した。


『皇成、あのウワサって本当なの!?』

『ウワサ? あーホント、ホント』

『ホントって、本当に行ったの!?』

『行ったのって、そりゃ、俺たち夫婦なんだから二人で行くだろ』

『そ、そうだけど……』


 もしかして、あの会話か?


 ということは、四月一日君が言ってた『二人で買い物に行っていた』という噂とは別に『俺が姫奈を妊娠させて、一緒に産婦人科に行った』という噂があって、大河が言っていたのは『妊娠させて、産婦人科に行った』の方ってことか!?


(てことは、昨日俺は、妊娠させたのを肯定したと……?)


 その瞬間、俺は顔面蒼白し、鮫島くんを見つめた。


「い、いや、まってくれ、鮫島君……!」


「お前、コンビニ強盗の時、言ってたよなぁ!『学校で学んで、いつか社会にでて働いて、しっかり家族を守れるようになってから、姫奈さんと結婚したい』って……それなのに、学生結婚したあげく、姫奈さんを妊娠までさせやがって! 俺は、お前なら姫奈さんを託していいと思ったから、身を引いたんだ。それなのに、ふざけんじゃねぇぇぇ!」


「っ──!?」


 瞬間、鮫島君の拳が、俺の頬をかすめた。

 あ、言っとくけど、これは矢印さま、使ってないからな!

 ここ最近、鍛えまくっている俺は、鮫島君の攻撃をよけられるようになったのだ!ふははは、すごいだろ!!――って、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!!


「鮫島君! 俺は――わっ!」


「鮫島さん、今っス! 一思いにやっちゃってきだせぇ!」


「ちょ、何すんだよ!?」


 すると、いきなり背後から、鮫島君の手下たちに羽交い絞めにされた。二人ががりで拘束され、もう逃げ場がない!


 そんでもって、鮫島君は、そんな俺めがけて、また拳を打ち込んできた!


「矢神、一発で許してやるから、歯くいしばれぇ!」


 えぇぇ!!なんでだぁぁぁ!


 歯食いしばる必要ないから!

 完全に誤解だから!!


 だけどその後、弁解する余裕すらなく、鮫島君の拳は、俺の頬に見事ヒットしたのだった。



 ◇


 ◇


 ◇



「大丈夫ですか? 矢神先輩」


 そして、その後、保健室で氷をもらった俺は、新聞部の部室に来ていた。


 廃部寸前の新聞部員は、今や、四月一日わたぬきくんと、長谷川さんの二人だけ。そして、その二人は、いきなり負傷して現れた俺に、かなり驚いていた。


「うわぁ……あの鮫島君に殴られるなんて、災難でしたね」


「でも、歯はかけてないですし、しばらく冷やせば腫れも引きますよ。鮫島先輩、手加減はしてくれたんですね」


「手加減して、こんなに痛いの!? てか、なんで俺が殴られるの!! 親にすら、殴られたことないのに!?」


 これまで、矢印様のおかげで、平穏無事な生活を送ってきた俺は、喧嘩やいざこざに巻き込まれることがなかった。


 だが、そんな平凡な日常が、姫奈と付き合ってから


「なんだか、碓氷うすい先輩と付き合ってから、矢神先輩、ついてないですよね」


「そんなことないよ!! てか、それ姫奈の前では絶対言うなよ!!」


 ズバリと言い当てた四月一日君に、俺はしどろもどろ答えた。


 ちなみに、あの後、鮫島くんには、しっかり誤解を解き、鮫島くんも、他の仲間たちも謝ってくれた。

 まぁ、完全に殴られ損なのだが、鮫島くんの気持ちも分からなくはなかったし、許してあげることにした。


 だが、問題は、まだ解決してなかった。


 なぜなら俺は、今、学園一の高嶺の花を妊娠させた最低野郎として、学校中の噂になっているわけだから!


 そして俺は決意し、改めて、新聞部の二人を見つめた。


「二人にお願いがある! 俺のために、新聞を書いて頂けないでしょうか!?」


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