ウワサ話に御用心!⑦


「ふあぁ~」


 次の日、体育の授業に出るため、更衣室で着替えていた姫奈は、珍しく欠伸あくびをしていた。


 夕べは、皇成が途中で目をさまし、姫奈はうなされていた皇成を暫く抱きしめていたのだが、その後も皇成はなかなか眠れず、それに合わせて、姫奈も少し寝不足気味だった。


(皇成君、どんな夢を見たんだろう。よっぼど怖い夢だったのね)


 まさか、女神に襲われる夢とは思いもせず、姫奈はブラウスを脱ぎ、体操服に着替える。するとそこに、姫奈の友人である女子生徒が、声をかけてきた。


「姫奈、大丈夫? 欠伸なんてして、珍しい」

「あ、そうだよね。ごめん、ちょっとだけ眠くて」

「そっか……眠くなるっていうもんね。体育出て、大丈夫なの?」

「え? うん。大丈夫」


 寝不足で、体育を休む?

 いくらなんでも、それは。


 だが、友人は酷く心配そうな顔をしていて、姫奈は首をかしげる。


(そういえば、昨日から、やたらと皆に心配されているような……?)



 ◇◇◇



「ふぁぁぁぁぁ~」


 そして、姫奈とは別のクラスになった皇成も、姫奈と同じように欠伸あくびをしていた。


 二日連続で、ほとんど眠れなかったからか、授業中は、うとうとしてしかたなかった。


(やばい! このままじゃ、マジで死ぬ……!)


 自分の状況を省みて、皇成は青ざめた。睡眠不足で死ぬなんて、そんな悲しいな話があるだろうか。

 矢印様に逆らい、あの平凡な日常を捨ててまで、姫奈を選んだというのに、その嫁が色っぽすぎるせいで、寝不足になって死ぬとか、どんな人生だ!


(でも家じゃ眠れないよな? そうなると、やっぱり、学校で寝るしか……)


 だが、今、自分は結婚しているわけで、そんな中、授業中に居眠りなんてしたら、学生結婚という無理な決断を許してくれた先生たちにも示しがつかない。


(やっぱ、授業中は絶対だめだ。寝るなら休み時間……でも、女神が出てきたらどうする? 夢の中で、撃退する武器とかないのか? いや、でも相手女神だろ? 女神って、つまり神様だろ?)


 そんなチートキャラ相手に、一般男子高校生が勝てる??

 特殊能力使われたら、もう終わるぞ。

 確実に襲われて、トラウマ背負うことになるぞ。


(あ、そうだ。矢印様に夢の中に、女神が出てこないかを聞けば……)


 と思いつつも、その矢印さまは、女神の授け物なわけで、女神が、いろいろ関与しているとなると、下手すれば、嘘の采配をお見舞いされても、おかしくはない。


(ああああぁぁぁ、どうすりゃいいんだぁぁぁぁ!!!)


 机に突っ伏し、皇成は絶望する。

 どういうわけか、全く眠るスキがない!!


(あぁ、もう辛い、きつい。起きたまま、寝る方法はないのか!?)


 そして、思考までもが、麻痺してくる。人間の三大欲求「睡眠」がいかに大事か!身を以て知ることになった皇成。


 だが、そこに……


(あ、そうだた。姫奈から、LIMEが来てたんだった)


 ふと、そんなことを思い出し、皇成はスマホを取り出した。

 夕飯は何がいいかと言う、お決まりのメッセージだ。すると、皇成は寝ぼけ眼のまま、メッセージを返信する。


「眠気が吹っ飛ぶような料理が食べたい」と──



 ◇◇◇



(眠気が吹っ飛ぶ料理……?)


 そして、何故か、そのメッセージを受け取った隆臣たかおみは、桜聖高校の教室で、首をかしげていた。


 LIMEの相手は、友人の皇成。そして、その皇成から「眠気が吹っ飛ぶような料理が食べたい」というメッセージが届いた。


(なんだ、いきなり?)


 皇成から来たメッセージを見て、隆臣は困惑する。すると、そんな隆臣をみて、そのまた友人である神木かみきくんが、声をかけてきた。


「隆ちゃん、どうしたの?」


「いや、友達からLIMEがきて……眠気が吹っ飛ぶような料理が食べたいって」


「は? なにそれ?」


「わからん。飛鳥、お前料理、得意だろ。眠気が吹き飛びそうな料理って、なにかあるか?」


「うーん、やっぱ、唐辛子とかワサビじゃないかな。辛い系。あとは……スルメ?」


「スルメ?」


「うん。ガムと一緒で、噛むことで眠気が和らぐらしいよ」


「へー。じゃぁ、スルメ食えって送っとく」


「あはは。なんか、面白いお友達だね?」


「あぁ、小学校の時の同級生で、この前、結婚したんだ」


「え、結婚!? 高3で結婚したってこと?」


「あぁ」


「へー、もしかして、できちゃったとか?」


「いや、できてねーよ。親にも先生にもちゃんと挨拶して、認めてもらったんだと。先週、話たしたけど、今は二人で暮らしてるみたいだし、幸せそうだったぞ」


「すごいねー、学生結婚を決断するなんて。ていうか、結婚してるっていうなら、そのLIME、送るつもりで間違ったんじゃない?」


「え?」


 瞬間、目が点になった。

 そして、隆臣は、改めて皇成メッセージを確認する。


 眠気が吹き飛びそうな料理が食べたい。


 確かに、夕飯の献立について送った、嫁へのメッセージに見えなくない。


「うわ!『スルメ食え』って、送っちまったじゃねーか!」


「あはは。隆ちゃんて、なんだかんだ面倒みいいよねー。てか、今頃、あっちも恥ずかしくなってるんじゃない?」



 ◇◇◇


(あああぁぁぁ、何やってんだよ、俺はぁぁ! 橘くんに送って、どうする!?)


 そして、その神木くんの言うとおり、皇成は、恥ずかしさのあまり赤面していた。


 まさか、嫁へのメッセージを、友人に送るなんて!これほどまでに、睡眠不足が平和な日常を脅かすとは思っていなかった!


(これは、早く何とかしないと……!)


 これ以上の羞恥を晒す前に!!


 だが、その瞬間、橘のメッセージに加え、もう一件メッセージが届いた。


 メッセージの送り主をみると、それは、この学校の番長である──鮫島さめじまくんからだった。


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