第102話 残された人々
「早く、早く逃げてください!」
ショッピングモールの中は、避難をする客たちで、酷くざわついていた。
あれから、警察に言われた通り、店員たちは、東棟の客たちを西棟へ移動させた。だが、多少パニックになった客たちもいたようで、避難には苦戦を強いられていた。
「おい! 火事ってホントかよ!?」
「落ち着いてください。とにかく今は、西棟へ避難してください!」
時刻は、19時56分。
あと、4分で爆弾が爆発する。
だが、迅速な対応により、あらかた客たちは非難させられたのだが、まだ、取り残されている人々もいた。
それが、あの観覧車に残された人達だ。
「ちょっと、早い、早い! 怖いです!! 四月一日くん!!」
そして、その観覧車の中では、床に座り込み恐怖に震える長谷川の姿があった。
観覧車の下のフロアで火災が発生したらしく、一刻も早く観覧車から脱出しなくてはならないからか、さっきから観覧車の様子がおかしいのだ。
「ギャー、揺れる、揺れてる!?」
「先輩、落ち着いてください、観覧車の速度が少し早まっただけです」
「そ、速度って! 観覧車って、速度変えられるの!?」
「メーカーや車体にもよりますが、変えられます。場合によっては逆回転もできます」
「逆回転!? なにそれ!? 四月一日くん、なんでそんなこと知ってるの!?」
「よく、文字を読んでるので」
緊急事態とのことで、観覧車の速度が少しだけ早まった。だが、早まればゴンドラは揺れるし、揺れると、もちろん怖い。
しかし、救助する側も、もうなりふり構ってはいられない様子だった。四月一日が、ゴンドラから下を見つめれば、観覧車の真下では、乗客を一組ずつ下ろしては、西棟への避難を促していた。
だが、四月一日たちの二つ前のゴンドラに乗っていた家族が、観覧車から降りたタイミングで、警官たちも同時に避難をはじめた。
「え……?」
もう、これ以上は、ここにいられないとばかりに、観覧車から離れる警察官や救助隊達。それをみて長谷川は、さらに怯え始める。
「わ、四月一日くん。なんか、みんないなくなっちゃうんですが……っ」
◆
◆
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──残り3分を切って、皇成はビルの中で、食い入るように爆弾を見つめていた。
もう、時間がない。だが、助かるためには、爆弾を止めるしか方法がなかった。仮にここで警察に連絡しても、状況を説明しているうちに、ドカンだ。
なら、もうプロの爆弾処理班の力を借りてる余裕すらない。
「これって……」
スマホの灯りを頼りに、爆弾をじっくり観察すれば、皇成は、あることに気づいた。
パソコンには、黒と緑の配線が伸びていて、その先には、姫奈がいうように爆弾がつながっていた。
そして、その爆弾には、色鮮やかな6本のコード。きっと、矢印様に聞きながら、姫奈が切ったのだろう。6本のコードは、全て切られていた。
だが、姫奈は、『すべて切った』といっていたのに、その爆弾には、まだコードが残っていた。
6本のコードとは別に、目立たない場所にあったのは──【赤】と【青】のコード。
きっと、このコードどちらかを切れば、爆弾は止まる。皇成は、そう確信した。
ドラマや映画でも、よくあるパターンだ。最後に残ったコードで主人公たちは悩み、究極の選択を強いられる。
【生】か【死】かの、二つの選択。
だが、そのコードの存在に気づいた瞬間、皇成はほっと息をついた。
「姫奈、大丈夫。絶対、助かるからな」
横で眠る姫奈の頭を撫でて、再び赤と青のコードを見つめた。
正しい方を切れば生き残り、間違った方を切れば死ぬ。まさに、究極の選択だ。
だが、思いのほか、冷静でいられたのは、自分には矢印様がついているから。
(どっちを切ればいいかは、矢印様に聞けば、すぐに分かる)
皇成は、床に転がっていたニッパーを手にすると、再びパソコンを見つめた。
残り2分──刻々と迫るタイムリミットを確認して、皇成は、すっと息を吸い、その後、矢印様に問いかけた。
「矢印さま、矢印さま──俺は《赤》と《青》のコード、どっちを切ればいいですか?」
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