第94話 刑事と爆弾魔
「電話、誰からだったの?」
取調室にて、橘が腰掛けたあと、釣が唐突に、そういった。
事情聴取に飽きてきたのか、はたまた、話をそらそうとしているのか。気だるそうに、だが、どこか抑揚のある声を放つ津釣は、橘の電話の相手が、誰かを聞いてきた。
普段は滅多に家族のことは話さない。
だが、橘は、そんな津釣の話に潔く答えた。
「妻だよ。クリスマスだってのに、今日も帰って来ないのかと詰めよられてね」
「へー。刑事さん、家では奥さんの尻に敷かれてるんだ」
「そうだな。おっとりしてるが、なかなか芯のある女だ。あーいうのには逆らわん方がいい」
「はは。だったら、帰ってあげればいいのに。俺の事なんか気にせず」
「そういうわけにはいかんさ。姫奈さんを、早く見つけてやらなきゃいけない」
「見つけるって、もう死んでるのに?」
「それでも、家族は姫奈さんの帰りを待ってる。例え、亡くなっていてもな。……お前さんが、もう少し詳しく思い出してくれたら、こっちも探しやすくなるんだが……まだ思い出せないのか?」
「…………」
瞬間、橘の話に、津釣が僅かに眉をひそめた。
一度逸れた話が、また舞い戻って来たからか、少し機嫌を損ねたようにも見えた。
まぁ、夕方から入れ代わり立ち代わり、ずっと、このやり取りだ。さすがの津釣も嫌気が指してきたのかもしれない。
すると、橘は──
「とはいえ、ずっと事件の話ばかりで疲れただろう。少し雑談をしようか」
「雑談?」
「あぁ、ただの世間話さ。津釣くんは、警備員をしていたそうだな、駅前のショッピングモールで。大変だっただろう、あれだけデカいモールの警備をするのは」
「別に。そうでもないよ、ほとんどが交通整理だったし」
「でも、迷子の面倒もよく見ていたと、職場の従業員たちが話していたぞ。だから、みんな驚いてた。あんなにいい子が、そんなことするなんてって」
「あー、そうかもね。これでも、仕事は真面目にやってたんだよ」
「そうみたいだな。そう言えば、あのショッピングモールは、観覧車が人気らしいな。津釣くんは、乗ったことがあるのか」
「…………」
不意に観覧車の話をされて、津釣は警戒しつつ、息を顰めた。
黙り込み、時計をちらりと流しみれば、今の時刻は、19時46分。
「あるよ。でも、それがどうしたの?」
余裕そうな笑みを浮かべて返せば、橘は、更に雑談を繰り返す。
「実は、俺の息子が、今夜、あの観覧車に乗るみたいでな」
「え……?」
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