第93話 最高の一枚


「わー、人がいっぱいいますねー!」


 ショッピングモールの屋上にて──


 観覧車に乗るために、長谷川と四月一日わたぬきがやってくると、そこは既に人で溢れていた。


 街のイルミネーションだけでなく、8時から始まる花火を目的にやってきたのか、そこには、カップルだけでなく、家族連れもたくさんいた。


 なにより、夜が更けるにつれてライトアップされる街並みは、もう既に美しく、そして、この夜景に更に花火まで加わるのだ。まさに絶景と言わざるを得ない。


「長谷川先輩、そろそろ並びましょうか?」


 自販機で温かい飲み物を買いながら、四月一日が声をかけた。

 観覧車の列は、少しだけ伸びていて、8時に乗るためには、そろそろ並んだ方がいいと考えた。

 すると長谷川は、四月一日から飲み物を受け取りながら、顔を綻ばせた。


「そうですね! 今日はありがとう、四月一日くん! やはり持つべきものは、優しくてボッチな後輩ですね!」

「ボッチは余計じゃないですか?」

「しかし、来年からはどうしましょうか! このままでは、新聞部は廃部の危機に!」

「て、話聞いてないですね」


 いきなり廃部の話に切り替わり、我をゆく先輩に、四月一日は呆れながら、買ったコーヒーをコートのポケットにいれた。


 すると、その後、長谷川がリュックからカメラを取り出し


「あ、カメラは、ちゃんと持って来たんですね」

「当たり前でしょう! 新聞部部長・長谷川 蘭々! 常にカメラとヴォイスレコーダーは常備しております!」

(こんなところは、相変わらずだな)


 夜景ならスマホでも撮れるだろうに、ちゃんとしたカメラを持って来ているのを見ると、さすがとしか言いようがない。


「また記事にするんですか?」

「そうですよ! 素晴らしい夜景は、みんなにもお裾分けしたいですし。それに、碓氷さんにもプレゼントしたいなーと」

「え?」

「だって、本当は、あの二人が見るはずだったイルミネーションですよ。ならば、最高の一枚を撮って、プレゼントしなくては!」

 

 いいながら、ファインダーを覗きこんだ長谷川に、四月一日はちょっとだけ暖かな気持ちになった。


 本来なら、碓氷先輩と矢神先輩が乗るはずだった観覧車。ならば、せめて写真だけでもという長谷川には、胸がほっこりしてくる。


(8時まで、あと15分か……)


 スマホで時刻を確認しながら、四月一日は観覧車を見上げた。


 街のイルミネーションは、夜8時を迎えると更に輝きが増す。そして、それを見るために、これだけの人々が今、観覧車の前に集まっている。


 まさに、お祭りのようなクリスマス・イブだ。


「行きましょうか、四月一日くん」

「はい」


 今日くらいは、文字ではなく、イルミネーションに集中してもいいかもしれない。珍しくそんなことを思いながら、四月一日は長谷川の後に続いた。

 

 だが、そんな四月一日たちの真下では、時限爆弾のタイマーが、着々と秒針を刻んでいた。


 爆弾が爆発するまで、残り──14分58秒

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