第91話 事情聴取
取調室では、
橘と金森の他の二名の警官たちに囲まれ、尋問を受けつつも、津釣は、とても落ち着いていた。
警官たちの質問にも億さず答え、時折笑みを浮かべる程の余裕すらある。その姿をみれば、女性を殺害し、動揺から出頭してきたようには、とてもじゃないが見えなかった。
「どうやって、姫奈さんを殺害したんだ?」
橘が問いかければ、津釣は、もう何度目かと呆れながら答えた。
「それ、何回答えればいいんだ?」
「そう言うな。車の中でだったな」
「うん、首を絞めて」
「凶器は?」
「ないよ。素手で絞めたから」
ちらりと時計を見て、津釣が答えた。
長めのアッシュカラーの髪が、取調室のライトのせいか青白く揺れる。
津釣の話は、確かに筋が通っていた。
だが、筋は通っていたが、不可解な部分もあった。
「それより、女を攫ったのが俺だって突き止めたの、アンタなんだろ。なんで、わかったの?」
すると、今度は津釣の方から、話しかけてきた。
どことなく、恨みがこもったような鋭い視線が橘を射抜く。だが、橘も負けじとその視線に目を合わせた。
「スニーカーの跡が特徴的だったからな。すぐにわかった」
「へー、靴の跡一つで、俺に辿り着いたの? コレお気に入りだったのに、残念だなぁ。刑事さん、凄いねー。まだ警部補なの? さっき取調しにきた警部さんより優秀そうだよ」
「俺の話はいいだろう。それより、さっきから時計をよく見てるが、時間が気になるのか?」
「……あー、この取調、何時まで続くのかなって。いい加減、疲れてきたし」
「何言ってるんだ。さっき休憩とって、カツ丼食わせたばかりだろ。もう少し、オジサンたちに付き合ってくれ」
静かな取調室には、淡々と二人の声が響く。
時刻は、19時34分。
すると、続けて橘が問いかけた。
「姫奈さんを遺棄した場所、もう少し正確に思い出してくれ」
「だから、よく覚えてないんだって。気が動転していて」
「…………」
津釣が、ため息混じりに答えると、橘もまた無音のため息をついた。
津釣の事情聴取が始まってから、ずっとこのやり取りの繰り返し。火薬も遺体も海に捨てたとはいうが、その正確な場所は覚えてないという。
──ヴー、ヴー
すると、その瞬間、橘の携帯に着信が入った。
コートのポケットの中でマナーモードにしていた携帯が、ブルブルと震え出す。
橘が、それ取りだし、相手を確認をすれば、それは橘の息子である、隆臣からだった。
(隆臣……?)
今日は、クリスマス・イブ。
隆臣は、喫茶店でバイト中のはず。
それにもかかわらず、滅多にかけて来ない息子が、電話をかけてきたというのが、少し気になった。
「電話?」
「あぁ、少し待っててくれ」
それを見て津釣が問いかければ、橘はすぐに取調室から出た。
廊下で、スマホをタップし息子からの電話に出ると、すぐに落ち着いた隆臣の声が響く。
『すまん、親父』
「なんだ、いきなり。何かあったのか?」
『いや、何かというか……無理は承知で、一つ聞いて欲しいことがある』
「聞いて欲しいこと?」
グッと息を詰めた息子の頼みに、橘は聞き入る。
すると──
『ショッピングモールにある観覧車を、今すぐ止めて欲しい』
「……は?」
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