第89話 リア充たちのクリスマス


「隆ちゃーん!」


 皇成が暮らす桜川から、車で二時間ほど離れた地域、桜聖市。


 そして、その街の喫茶店でバイト中だった隆臣たかおみは、見なれた友人に声をかけられた。


 金色の髪に青い瞳。女の子みたいに綺麗な容姿をした飛鳥あすかは、これまたクリスマス・イブにも関わらず、彼女ではなく、家族を連れてやってきた。


 普段飄々としている飛鳥は、これでも小学生6年生の双子の妹弟がいるお兄ちゃんだ。母親が早くに他界しているため、家事に育児にとなんでもこなす、とってもハイスペックなお兄ちゃんなのだが……


「クリスマスだってのに、とは。相変わらずリア充なのは、だな」


 隆臣がズバリといえば、飛鳥は眉間に皺を寄せ、真っ黒な笑顔をうかべた。


 学校では、かなりモテまくってる飛鳥。だが、残念ながら彼女よりも家族が大事だという、ちょっとアレなお兄ちゃんだ。


「なんで彼女がいる=リア充なの? 言っとくけど、俺のリアルは、彼女がいなくても、めちゃくちゃ充実してるよ。そういう隆ちゃんは、彼女いない上に、クリスマスにバイトなんて、非リア真っ只中だね!」


「うるせーな! 俺も先日、空手の大会で優勝して、リアルはそれなりに充実してるよ!」


 誰が決めたか知らないが、リア充だの非リアだの、その定義は曖昧なものである。要は、自分の気持ち一つで、どちらにもなれるものかもしれない。


「それより、珍しいな。こんな時間にケーキ取りに来るなんて」


 すると、隆臣が時計を見ながら、飛鳥に問いかけた。今の時刻は、19:24分。


 この喫茶店では、クリスマスケーキも販売しているため、飛鳥はいつもこの店で頼んでいるのだが、普段なら、もっと早い時刻に取りに来るのだ。


「あー……実は俺、この前、商店街の福引でイベントの観覧チケット当てちゃって」


「あぁ、アイドルが来るとか言ってた、桜聖市主催のイベントか?」


「そうそう。いもうとおとうとが、どうしても行きたい言うから、連れて行くことになったんだ。だから、ケーキもその帰りでいいかなーと」


「あぁ、なるほどな。でも、その割には早くないか?」


「あーそれが、アイドルより俺の方が目立っちゃて、迷惑になるから帰ってきた」


「それは、マジで迷惑な話だな」


 どうやらステージに立つ芸能人より、一般人の飛鳥の方が目立っていたらしい。確かに、飛鳥のオーラは輝きに満ちているし、男でありながら美少女にも見えるため、性別不詳というオプションがつけば、会場の話題はあっさりかっさらえる。


 ある意味、そのチケットをこの"絶世の美男子"に当てられてしまったアイドルが、可哀想でしかたない。


「橘くーん! 休憩どうぞー!」

「あぁ……じゃぁな、飛鳥」

「うん、バイト頑張ってね」


 そんこんなで軽く雑談を終えると、隆臣は他の店員に呼ばれ、代わりに休憩にはいった。


 喫茶店の奥の休憩室につけば、他の店員はおらず一人だった。


 隆臣は、ロッカーからリュックを取り出すと、その後テーブルにつく。だが、リュックからスマホを取り出した瞬間、意外な人物から着信が入っていて、隆臣は首を傾げた。


「皇成?」


 隆臣が桜川に住んでいた頃の友人。

 皇成とは、最近また連絡を取り始めた。


 だが、皇成からは、先日、碓氷さんと付き合うことになったと報告を受けていた。


 だから、クリスマスは、碓氷さんといるだろう。

 そう思っていたのだが


(アイツ、一体なんの用だ?)


 まさかクリスマスに電話とは。

 隆臣は、不思議に思いつつも、折り返し皇成に電話をかけた。

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