第88話 観覧車は止まらない


『矢神、テメー、今まで何やってたんだ!?』


 皇成が警察署から出て、自転車にまたがった瞬間、ちょうど電話がかかってきた。


 誰かと思えば、それは姫奈探しに協力してくれていた鮫島さめじまで、いきなりつんざくような怒鳴り声が響いた瞬間、皇成は青ざめる。


「ご、ごめん!」

『夕方から、ずっとかけてんのに、全くでねーで! 何かあったのかと』

「そ、それは……っ」


 鮫島には、まだ姫奈の話も、犯人が捕まった話もしていなかった。


 だが、警察署での、もろもろを話している余裕はないし、なにより『寝てました』なんていったら、なんだか殴られそう!


「そ、それより鮫島くん、今どこにいるの!」

『今? ショッピングモールの前だ』

「ショッピングモール?」

『ああ、観覧車のある』

「観覧……」


 その瞬間、ふと、観覧車はどうなっただろう──そう思った。


 店員は、点検をしてくれると言っていた。だが、妙な胸騒ぎがして、皇成は再び鮫島に問いかけた。


「観覧車、止まってるよね!?」

『は? なにいってんだ。普通に動いてるぞ』

「……っ」


 動いてる──そう言われ、皇成はじわりと汗をかいた。結局、点検はしなかったのだろうか? いや、きっと点検が終わり、運転を再開したのだろう。


(じゃぁ、もう大丈夫……なのか?)


 点検をしたなら、きっと大丈夫。

 だが、どうにも不安は消えず、皇成は改めて矢印様に問いかけた。


(矢印様、観覧車で、もう事件や事故は起きませんか?)


 だが、その問いに、矢印様は昼間と同じく《起きる》と答えた。今も尚、変わらない采配に、皇成は困惑する。


(っ……なんで)


 点検を終えたなら、観覧車自体に問題はないのかもしれない。だが、そうだとしたら……

 いや、今はもう、あれこれ考えてる暇はない!


「鮫島くん、観覧車止めて!」

『はぁ?』

「あ、その……っ」


 だが、言いかけて、すぐさま口篭る。


 自分があれだけ説得して、やっとのこと点検まで漕ぎ着けた。だが、点検を終えた今、また誰かが、と言ったところで、それを受け入れてくれる可能性は、限りなく低い。


(っ……どうする。他になにか、方法は)


 確実に、止められそうな方法を考える。


 だが、自分の曖昧な言葉は、誰も信じない。仮に、矢印様の話をしたところで、それはきっと変わらない。


(どうすれば……っ)


 早く姫奈の元にいきたいのに、観覧車に乗る人達のことも、ほってはおけなかった。


 だが、他に、いい方法なんて……


(あ……)


 だが、その瞬間、ふと思い出した。

 さっき、警察署で聞いた、を──


「ごめん、電話切る!!」

『はぁ!?』


 その後、ブチッ──と、鮫島との電話を切ると、皇成は、また別の相手に電話をかけた。


(頼む、出てくれ──)


 そして、その相手は……

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