第83話 イルミネーション


「さすが、クリスマス。どこもかしこも、イルミネーションで溢れてますね!」


 ショッピングモールで待ち合わせをした後、新聞部の二人は、その中にある飲食店で夕食をとっていた。


 窓際の席から見るイルミネーションは、もうすでに美しかった。


 夜7時を迎えると、この町は盛大に輝きだす。


 だからか、ショッピングモールの中は、いつも以上に賑わっていた。夕方まで、点検のために止まっていた観覧車も動き出し、例年と同じように、特設会場ではクリスマスイベントの催しも開催され、モールの中は、カップルだけでなく、家族連れも多い。


「結構、子供もいますね」


 食事をとりながら、あたりを見回し、四月一日わたぬきが呟いた。


 基本、クリスマスは家に引きこもっていたからか、四月一日からすれば、こんなに子供連れがいるとは思わなかったらしい。すると、不思議がる四月一日に、長谷川が明るく答える。


「観覧車目当ての家族もいるみたいですよ。チケットが当たった人しか乗れませんし、それでなくても、このショッピングモールは高台にありますから、イルミネーション見るにはうってつけの場所ですしね」


「へー、だから、こんなに人が多いんですね」


「はい! それに、夜8時には花火も上がるので、子供たちにせがまれて、来ている家族もいるんじゃないでしょうか?」


「花火?」


「はい。8時から8時半まで、だから、その頃、観覧車に乗る人が一番多いと思うので、早めに順番待ちした方がいいかもしれませんね。あ、四月一日君、今日の門限は何時ですか?」


「9時です」


「じゃぁ、8時に観覧車にのれば、9時には間に合いますね!」


 意気揚々とした長谷川を見つめながら、四月一日は食事を続けた。


 すると、ふと先日、見かけた家族連れが目に入った。

 コンビニ強盗に出くわした時に見かけた、妊娠中の母親と5歳くらいの女の子。そして、その傍には父親もいて、手をつないで歩く姿は、とても幸せそうだった。


(そういえば、矢神先輩たち、なんで今日、観覧車に乗れなくなったんだろう)


 そして、その女の子を見て、不意に皇成のことを思い出した。


 付き合ってすぐに、クリスマス限定のチケットが当たるなんて、きっと最高に運が良かったはず。それなのに、それを無駄にするなんて……


(観覧車よりも、大事な何かがあったのかな?)


 だが、それが何かはわからないまま、四月一日は、再び外を見つめた。


 輝く夜の世界は、とても幻想的で、まさに聖夜と呼ぶにふさわしい最高の夜だった。

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