第78話 悪い知らせ


「はぁ、はぁ……っ」


 鮫島から借りた自転車をひたすら漕いで、皇成は、とある地域までやってきた。


 場所は、蔵木くらぎという地域。


 鮫島から来た目撃情報を元に、皇成は、手当り次第、矢印様に問いかけた。すると、矢印様は、この蔵木という地域に姫奈がいると確定し、ここまでやってきた。


 この蔵木は、少し閑散とした地域だ。昔は栄えていたが、駅前にショッピングモールが出来てからは、客足が遠のき、閉店に追い込まれた店が転々と並んでいる。


 ある意味、隠れるなら打ってつけの場所かもしれない。

 だが、地域は特定されても、この場所で、また姫奈がいる建物を特定しなくてはならない。だが、これ以上、矢印様を使えば、確実にぶっ倒れる。


(はぁ……あと、少しなのに)


 クラクラと視界が揺らぐ。オマケに、町中を走り回ったからか息もきれ、今にも膝をつきそうな勢いだった。


 だが、もうすぐ夕方。空を見上げれば、日は着々と沈み始め、夕日の色に変わり始めていた。


 姫奈のことを思えば、胸が酷く傷んだ。


 今、どんなに怖い思いをしているだろう。

 ちゃんと、無事でいるだろうか?


 時間が進めば進むほど、先日の女神の言葉がチラつく。


『あの子は、もうすぐ死ぬのです』


 死なせたくない。

 こんな形で、姫奈を失いたくない!


「早く、見つけないと……っ」


 こうなったら、手当り次第、空き家や廃ビルを調べていくしかない。


(まずは、この廃ビルから……)


 トゥルルルル……!


 だが、そこに、突如、皇成のスマホが鳴り響いた。かけてきたのは、皇成の母親である、矢神 麻希だった。



 ◆


 ◆


 ◆



 姫奈の悲報が、家族に伝えられたのは、あの後しばらく経ってからだった。


 碓氷家にやってきた刑事から聞かされたのは、姫奈が亡くなったという知らせ。


 姫奈の帰りを自宅で待っていた姫奈の父であるひろしは、その場で泣き崩れ、その後、その話を電話で受け取った兄の直哉なおやも、ただ呆然と立ち尽くした。


 そして、その話は、姫奈の父から、すぐに矢神家にも伝えられた。


 姫奈が行方不明になったと聞いてから、ずっと心配していた麻希は、その連絡と共に、深い悲しみの渦に飲み込まれた。


 今日は、姫奈も一緒にクリスマスパーティーをするはずだった。それなのに……



 ◆



「母さん、姫奈は!?」


 麻希が皇成に電話をかけたのは、姫奈の悲報を知らされた、すぐあとのことだった。


 皇成には、姫奈の死は知らせず、犯人が捕まったとだけ伝えた。その知らせを、ありのまま伝えてしまったら、気が動転して、皇成が事故にでもあいそうだと思ったから。


「犯人、捕まったんだろ!? 姫奈は」

「皇成、落ち着いて」


 姫奈の父と兄、そして、麻希が警察署で落ち合うと、それからしばらくして、皇成もやってきた。


 蔵木から自転車を飛ばし、桜川警察署まで。

 だいたい20分くらいだろうか?


 そして、警察署に入るなり、皇成は母に詰め寄った。落ち着けなんて言っても、落ち着けるはずがない。だが、その後、放たれた麻希の言葉に、皇成は戦慄する。


「──え?」


 それは、あまりにも残酷な知らせだった。あまりのことに、すぐには飲み込めず、呆然と母を見つめる。


「な、に……言って」


 まともに声が出せない。

 身体中からは、自然と汗が吹き出し、聞き間違いかと模索する。


 だけど、その場には、姫奈の父親のひろしさんと、兄の直哉なおやさんもいて、二人が酷く沈んだ顔をしているのがわかった。


 そして母親の麻希も、その後、警察署の中で泣き崩れた。阿鼻叫喚するような、その場の雰囲気に、皇成は打ちのめされる。


 姫奈が、死んだ。

 いや、殺された。誘拐犯に──

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