第77話 安堵とカウントダウン


「翼ー、誘拐犯、捕まったみたいよー」


 部屋で本を読んでいた四月一日わたぬきの元に、母がやってきたのは、もう夕方4時をすぎた頃だった。


 辺りが、次第に薄暗くなり始めた頃、テレビから速報として流れてきたのは、先程の女子高生をさらった誘拐犯が、自首してきたという知らせ。


 その話を母親から聞いた四月一日は、すぐさまスマホで事件のことを調べると、どうやら、爆弾魔と誘拐犯は同一人物らしく、本当に捕まったのだと安堵する。


「ねぇ、観覧車、どうすんの?」


 すると、母親が、改めて問いかけた。

 四月一日は、読んでいた本をパタンと閉じると


「どうって……先輩次第」

「せっかくだし、行ってきなさいな。観覧車からイルミネーションみれるなんて、そんな機会滅多にないんやから」

「…………」


 本ばかりの息子が、やっと高校生らしいクリスマスを過ごすことに、少し浮かれているらしい。


 まぁ、母の気持ちも、わからなくはなかった。

 友達もいない、彼女もいない。文字ばかりの人生を送る息子を、心配しない親などいるだろうか?


「わかった。先輩に電話してみる」


 その後、四月一日は、スマホを手に電話をかけた。


 長谷川先輩だって、イルミネーションを見るのをとても楽しみにしていた。


 なにより、誘拐犯も爆弾魔も捕まった今なら、安全だろうし、まだ時間もある。


 元々、夜6時に待ち合わせて、一緒に夕飯を食べたあと、観覧車に乗ろうと話していたから。


『はいはーい! どうしたんだい、四月一日くん!』


 すると、電話をかけるなり、長谷川の明るい声がして、四月一日はすぐに要件を伝える。


「長谷川先輩。誘拐犯、捕まったみたいです」

『え!? 本当!? それで、誘拐された女の子は!?』

「そこまでは載ってなかったけど、犯人は自首してきたそうなので、もしかしたら、無事なのかも」

『無事? そっかー、自首してきたんですね。とりあえずは、捕まってよかった』


 女子高生の安否は、まだはっきりとはしないが、誘拐犯が自首したという知らせには、素直に安堵する。


 その後、改めて観覧車の話をすれば、二人は元の待ち合わせ通り、ショッピングモールで落ち合い、観覧車に乗る約束をした。


 そして、その観覧車も、それから暫くし、点検を終える。



「主任、点検終わったよ〜やっぱり、朝と同じ。故障も不審物もなかったし、再開して大丈夫だろう」

「ありがとうございます。すみません、無理言って」

「いやいや、やっぱ、イタズラだったんじゃないか」

「そうですね。全く、このクソ忙しい日に」

「また、かかってきても、もう聞くなよ」

「そうします」


 観覧車は、再び動き出す。


 日が暮れる同時にイルミネーションに包まれながら、美しく。そして、優雅に──


 だが、その真下には、確かに爆弾が仕掛けられていた。


 残り時間【3時間49分7秒】

 死へのカウントダウンは、着々と迫っていた。

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