第75話 誰も死なせない
だが、その時、ふと外の光景が目に入った瞬間、姫奈は、目を見開いた。
さっきまで動いていた観覧車。それが、何故かとまっていた。一瞬、幻覚かと思った。だが、目を凝らしてみても、それは間違いなく動かなくなっていて、ピタリと静止した観覧車を見て、姫奈は、一気に力が抜ける思いがした。
「止まってる……?」
なぜだか、分からない。
でも、確かに止まってる。
それに、止まったということは、今、観覧車の中には、誰もいないのかもしれない。
(っ……よかった)
たまたまかもしれないが、おかげで少し冷静になれた。そして、気づいた。ただ泣いているだけでは、なにも解決しないと。
(……大丈夫。皇成くんも警察もさがしてくれてるんだし。それに、私には矢印様がついてる──)
大丈夫、大丈夫──何度と自分に言い聞かせると、姫奈は、胸の前で手を組み、改めて、矢印様に問いかけた。
「矢印さま──私は、このまま『助けを待つ』のと『爆弾を解体する』……どちらを選べばいいですか?」
自分の、この先の行動を、矢印さまに委ねる。
生き残るため。みんなを救うために、一番最良な選択を──矢印様に託す。
すると、矢印さまは、ゆらゆらと揺れ、片方のプレートを指した。
矢印様がさしたのは──『爆弾を解体する』と書かれたピンクのプレート。
「……っ」
グッと息を詰め、その采配を受けいれた。
爆弾なんて、素人には普通解体できない。でも、矢印様はいったのだ。解体しろと。
それに──
(『助けを待つ』に、ならなかったってことは、間に合わないのかもしれない)
夜8時までに、皇成たちは自分を見つけ出せない。
その可能性が高いと思った。
なにより、犯人は自首すると言っていた。
なら、そうなったとしても、なんらおかしくない。
「っ……やらなきゃ」
助けが、間に合わないなら、自分で何とかするしかない。そう思うと、姫奈、今一度、時限爆弾を見つめた。
パソコンから繋がった黒と緑のコードの先には、複雑に入り組んだ6本のコードがあった。
白、黄、茶、紫、紺、桃色の6種類のコード。
そして、これを正しい順に切れば、爆弾は止まる。
他にできる人はいない。なら、ショッピングモールにいる人たちを助けるためにも、自分が、爆弾を止めなくては──
その後、袖口でゴシゴシと涙を拭うと、姫奈は、ゆっくりと辺りを見回した。
なにかメモできるものはないかと部屋の中を見回せば、パソコンが置かれた木箱の上に、男が置き去りにしたペンが一本だけ残っていた。
そして、壁には色あせたポスター。
ふらつきながらも立ち上がり、そのポスターをベリッと剥がせば、裏は真っ白で、姫奈は、その白い面を床に広げ、ペンを手にする。
(使いすぎると、倒れるかもしれない。それでも──)
覚悟を決め、また爆弾を見つめる。
残り時間──【4時間27分9秒】
そして、それまでに、6本のコードを正しい順に切る。だが、その順列は、全部で46,656通り。
それは、果てしなく不可能な数字にみえた。
自分が普通の女の子なら、きっと導き出せない。
でも、時間はまだあるし、自分には矢印様がついている。
なら──きっと不可能じゃない。
姫奈は、そう思うと、ポスターの裏にスラスラたと文字を書き始めた。
誰も死なせない未来を、導き出すために──
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