第74話 後悔


 ──ドンッ!!!


 力いっぱい扉を叩く。あれから姫奈は、部屋から脱出する方法を、必至に考えていた。


 場所は、廃ビルの7階。


 元音楽スタジオの跡地で、防音環境の行き届いたその建物は、どれだけ叫んでも外には響かず、唯一の窓は、分厚い強化ガラスの二重構造で、ヒビすら入らなかった。

 しかも、入口の重厚な扉は、どれだけ体当たりしようがビクともしない。


「ダメ……全然、開かない……っ」

 

 ひとしきり体を酷使したあと、姫奈は床にへたりこんだ。


 スマホを奪われて連絡すら出来ず、女の力では扉を壊すことは愚か、窓を割ることすら出来なかった。


 そして、部屋の中にあるのは、刻々とタイムリミットが迫る──時限爆弾。


 あの男が、夜8時を爆破時刻に選んだのは、イルミネーションが最も綺麗に観れる時間だからだろうか?


 嫌な男だと思った。この町の人々が、クリスマスケーキを囲み楽しく過ごしている時間に、地獄のような事件が起こる。

 そして、それをゲームとして楽しんでる。


「っ……最低」


 キツく唇をかみ閉めれたあと、ずっと堪えていた涙が、限界とばかりに溢れ出した。

 不安と恐怖と怒りが、淀みなく押し寄せて、涙は、ひたすら頬を伝い、無機質な床にシミを作る。


「……ぅ、うう……っ」


 どうして、こんなことになったのだろう。


 観覧車──いや、ショッピングモールにいる人たちを助けたい。でも、ここから出られないと、警察に知らせることも出来ない。

 でも、そうなると、この時限爆弾を停めるしかなかった。だが、間違ったコードを切れば、その瞬間、爆発する。


「どうしよう……っ」


 他人の命を人質に取られているせいか、危険な賭けには、なかなか踏み出せなかった。


 それに、姫奈は酷く後悔していた。数日前、新聞部の長谷川に、観覧車のチケットを譲ってしまったことを──


(っ……もし、あの観覧車に、長谷川さんが乗っていたら、私のせいで長谷川さんが……っ)


 いつもこうだ。いつもこうして、やることなすこと裏目に出る。矢印様がついていても、肝心な時に使いこなせていない。


「っ……なんで」


 自分が、嫌になってくる。

 そして、そのせいか、涙が益々とまらなくなると、姫奈は小さくうずくまった。


「皇成……くん……助けて」


 そして、不意に助けを求めた相手は、皇成だった。

 

 幼かったあの頃を思い出す。なにか不運に巻き込まれると、いつも皇成が助けてくれた。

 それに、かくれんぼをすれば、皇成は、すぐに姫奈をみつけていたのだ。


(また……見つけてくれるかな?)


 僅かな望みを、託す。

 なにより、皇成は探してくれていると、矢印さまも言っていた。なら……


「……!」


 だが、その時だった。

 ふと、外の光景が目に入った瞬間、姫奈は、目を見開いた。

 

 



 

 



 

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