第73話 使いすぎ


「いい加減にしなさい!」


 屋上で悠々と観覧車が回る中、ショッピングモールでは、またもや、かかってきたイタズラ電話に、主任である男が声を荒らげていた。


 だが、その電話は、イタズラなどではなく、"矢印さま"により危険を察知した皇成からなのだが、店員たちが、その話を信じることはなく。


『無理は承知で言ってるんです! お願いです! 観覧車を止めてください!』


「止めてくれってなぁ。今日はクリスマス・イブで、みんな観覧車に乗るのを楽しみにしてるんだよ。止められるわけが」


『だったら、一度点検してください!』


「はぁ?」


『故障とか、不審物がないかとか!』


「いやいや、点検は朝しっかりしてるし、どこにも不備は」


『ないって言い切れますか!? 本当に!?』


「……っ」


 皇成の言葉に、男は軽く怖気付いた。


 また、かかってきたら一喝してやると女性店員にも話していたが、いざ電話に出てみれば、その少年の訴えが、あまりにも切実なものだったから。


『お願いします、観覧車を停めてください……っ』

「…………」


 なぜだろう。この声が、イタズラや嫌がらせの類に聞こえないのは……それに『言いきれるか』と言われると


「あー、わかったよ! そこまで言うなら、一旦とめて点検するから! だから、もうかけてくるなよ!」

『本当ですかッ!!』


 願いを聞きいれてくれた店員に、皇成はパッと顔を綻ばせた。さっきから何度と煙たがられてきたが、やっと思いが通じた。


『ありがとうございます!!』


 その後、切実にお礼を言って電話を切ると、それと入れ替わりに、今度は鮫島から電話がかかってきた。


『矢神、一時頃に高校の近くでも、見たやつがいたぞ。黒のワゴン車』


「えぇ、今度はあっち!? ていうか目撃情報、多すぎ!」


『仕方ねーだろ! 黒のワゴン車が、どれだけいると思ってるんだ!』


 あれから、鮫島の協力の元、姫奈を探している皇成だが、いかんせん、目撃情報がありすぎて、逆にんからなくなってきた。


 とはいえ、観覧車は止められた。なら、この先は、姫奈のことだけに集中できる。


(落ち着け。とりあえず、矢印様の情報を整理しながら)


 あの後、警察から姫奈の家族にも連絡がいったらしく、姫奈の父親から連絡を貰った皇成の母親が心配し、電話をかけてきた。


 姫奈の父親は、姫奈から連絡があった時のために自宅に待機し、攫われた姫奈のことは、姫奈のお兄さんも含め、警察や鮫島の仲間たちと、たくさんの人たちが探してくれている。


(大丈夫。皆で探せば、絶対見つけられ……ッ)


 だが、その瞬間、頭がスギリと傷んだ。


 午前中から、何度と矢印様を使っていたからか、そろそろ限界が近いのかもしれない。


(っ……流石に使いすぎた。でも)


 今は、まだ倒れるわけには、いかない。

 無事に姫奈を、助け出すまでは──…


 





*****


 いつも閲覧ありがとうございます。

 ずっと、更新ができず、申し訳ありません。


 近況ノートにも書きましたが、ワクチン接種の副反応で寝込んでおりました。まだ、手の痺れが続いているので、暫くは文字数少なめになりそうですが、できる限り更新していきたいと思います。


 では、引き続き、閲覧&応援を頂けると嬉しいです。いつもありがとうございます♡

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