第72話 ゲーム
「あぁ、前世の俺が、殺されるきっかけをつくった女に」
「え……?」
その言葉に、姫奈は耳を疑い、同時に息を詰めた。さっきから、理解できない言葉の羅列ばかりで、思考が上手く追いつかない。
すると、その場に座り込んだまま、ひたすら困惑する姫奈を見て、男はまた話し始める。
「俺、前世で魔王やってたんだ。前の世界は、こっちより酷くてさ。全部ぶっ壊して、一から作り直そうとしたんだけど、俺を倒しに、勇者がやってきた。そして、その仲間の中に、君によく似た女がいたんだよ」
「……」
「ただの村娘だと思ったら、とんだ化け猫でさ。あの女、聖女だってこと隠してたんだろうな。自分の命と引替えに、俺の魔力を根こそぎ奪いやがった。おかげで、俺は勇者にやられて……まぁ、その勇者も、俺と相打ちになって死んだけどな」
「…………」
まるで、ゲームか小説の中の話みたいだった。魔王とか、聖女とか、勇者とか。
(な、何この人……っ)
いわゆる、厨二病と言うやつだろうか?
自分の前世が魔王とか、ちょっと痛い。
いや、かなり痛い!
「あ、信じてない? 別にイカれてるわけじゃないよ。昔、自殺して生き返ったって言っただろ。その時に、前世の記憶を思い出して、"
「…………」
どこか諦めたように、男はそう言って、その後、また穏やかに笑った。
"
前世の記憶が一切ない姫奈にとっては、それは理解し難い話だった。だが、仮に前世が魔王だったとしても
「今のあなたは、人間なんでしょ」
「はは。そうだよ。人間は不便だな。魔力は使えないし、体はもろいし。おかげで、観覧車一つぶっ飛ばすのにも、時間と頭を使わなきゃいけない」
「…………」
「まぁ、俺を出し抜いたあの聖女には、いつか復讐したいと思ってたんだ。あの勇者にもな……でも、ただ似てるだけのアンタに罪はないし、リア充にも罪はない。だから、一つだけ、チャンスを与えてやるよ」
「チャンス?」
「あぁ、ただリア充ってだけで、一方的に殺されるなんてあんまりだろ。だから、俺とゲームをして勝ったら、観覧車の下にある爆弾は爆発しない」
「……ほんと?」
その言葉には、一筋の光のようなものが見えた。観覧車に乗ってる人たちを、助ける方法がある。
だが、どこか含みのある表情で、姫奈を見つめた男は、その後、木箱の上にあるパソコンを姫奈に見せた。
すると、その画面には、大きく時間が表示されていた。デジタルで表示された、その文字は
【05:41:18】
そして、その《18》の部分は、一秒ごとに、17…16…15…と、表示を変えていく。まるで《0》に向かうように。
「なに、それ……っ」
「時限爆弾だよ。残り5時間41分13秒。これを止められたら、あんたの勝ち」
「止める……!?」
それには、さすがに耳をうたがった。時限爆弾なんて、素人が簡単に解体できるようなものじゃない!
「そんなの……っ」
「無理だって? まぁ、無理かもな。ちなみに、このパソコンに繋がってる、それが爆弾で、その爆弾にコードがついてるだろ、6本。そのコードを正しい順番で切れば装置は止まる。でも、止められなかったら、この爆弾が爆発して、この廃ビルごと吹っ飛ぶ。C4って知ってる? プラスチック爆弾。遠隔操作できる爆弾なんだけど、このパソコンと、観覧車にある爆弾がリモートでつながってるんだ。だから、このパソコンの反応がなくなったら、あっちの爆弾の起爆スイッチも同時に作動するようになってる。つまり──夜の8時までに、この爆弾を止められなければ、アンタも観覧車も同時に吹っ飛ぶってこと」
「……っ」
じわりと汗が流れた。
改めてそれ見つめれば、確かに、パソコンから伸びる2本のコードの先に、ドラマでも見るような爆弾の装置が繋がっていた。
そして、その装置には6本のコードがみえていて、そのコードを正しい順序で切らなければ、爆弾は止まらない。
「ついでに言うと、間違ったコードを切った瞬間、爆発するから慎重にな」
「ッ……そんなの出来るわけ!」
「ないかもな。でも、だからゲームなんだろ。簡単にクリア出来たら面白くない。まぁ、確率は0じゃないんだ。運が良ければ、止められるかもな?」
「……っ」
すると男は、にっこり笑って立ち上がったあと、姫奈の前に歩みより、コードを切るためのニッパーを差し出してきた。
だが、姫奈は、それを受け取ることも出来ず、ただただ涙目になる。
「あぁ、いいね、そういう怯えた顔。やっぱ、ゲームするなら可愛い子に限るな。バズってたカップルの中でも、ダントツで可愛かったし」
「バズってた……?」
「彼氏と一緒に写ってた写真が、ハズってただろ。スタンプで顔は隠れてたけど、髪の色が特徴的だったから、映画館で見たとき、すぐにわかった。ついでに、一緒にいたあの男が、勇者かと思ったけど、さすがにないか。
地味なやつ──それは、皇成のこと言っているのだろう。クスクスと笑う男の声が響けば、不安と混沌は、ひたすら大きくなる。
「まぁ、頑張って! それじゃぁ、時間ないし、俺は行くから」
「行くって」
「さっき言っただろ、警察に自首しに行くって。実はさ、ちょっと舐めてたんだ、日本の警察のこと」
「え?」
「観覧車を爆破する前に、何度か練習したんだ。一箇所目はラブホで、二箇所目は公園。三箇所目は、南京錠で愛を誓うカップルの聖地みたいな場所。全部、SNSでバズってたリア充達が、楽しそうに過ごしてた場所だよ。でも、足がつかないように、時間をずらしたり、監視カメラに映らないようにしたのに、
「…………」
「案外、優秀だったな。おかげで数日、野宿する羽目になった。でも、ここで普通に捕まって、計画つぶすわけにはいかないし、俺は警察署の中で、観覧車が爆発されて、絶望の淵に落とされた警官たちを見て、楽しむとするよ。じゃぁな、リア充さん! 奇跡、起こせるといいね♪」
その後、ヒラヒラと手を振った男は、扉を開けて、部屋から出ていった。
出る際には、ガシャンとしっかり鍵がかかる音が聞こえた。
密室の中に一人きり。
男と離れたことを多少安堵するも、姫奈の心の中は、もはや絶望にも似た色が渦巻いていた。
6本のコードの正しい順に切る。
その順列は、全部で、46,656通り。
その中のたった一つの正解を導き出すことが、はたして出来るのか?
それは、あまりにも途方もないことように感じた。
まるで先の見えない真っ暗闇に、たった一人、立たされたかのように──…
***
いつも閲覧ありがとうございます。
本日、コロナワクチンの2回目を接種してきました。それにより、明日の更新は未定となります。元気に小説書けそうなら、また明日も更新しにきますね(大丈夫だといいなー)
また、今かなりやばい展開になっていますが、変わらず読みに来てくださり、本当にありがとうございます!
引き続き、完結を目指して頑張りたいと思います。
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