第66話 協力者
「おい、矢神。そんな所で、なにやってんだ?」
皇成が振り向けば、そこにいたのは、同級生の鮫島だった。そして、その姿を見るなり、皇成は慌てて駆け出すと
「鮫島くん! 自転車、貸して!! それと、黒いワゴン車みなかった!?」
「はぁ? いきなりなんなんだ」
一方的に要件だけ伝える皇成に、鮫島は鮫島は酷く迷惑そうな顔をして答えた。
なにより、学園一恐れられてる鮫島が、皇成のような底辺に、自転車をせびられることなど、これまでにあっただろうか? いやない。だが、それよりなにより一番不思議だったのが
「大体、お前、こんなところで何やってんだ。姫奈さんは?」
先日、鮫島は、皇成のことを、姫奈の彼氏として認めた。だからなのか、クリスマスという一大イベントの日に、皇成が姫奈と一緒にいないことに、鮫島は首を傾げる。
すると皇成は、青ざめながら──
「さ、攫われた……っ」
「え?」
「家に迎えにいったら、玄関が空いてて……黒いワゴン車に乗せられて、それで」
「……ッ」
瞬間、鮫島は皇成の胸ぐらをガシリと掴み上げた。
一瞬意味がわからなかった。だが、皇成の苦しそうな表情を見れば、深い後悔や自責の念に駆られていることが痛いくらい伝わってきて、それが嘘や冗談ではない真実だとつきつけられる。
すると、鮫島は、渋々皇成から手を話すと
「クソッ……警察には言ったのか?!」
「言った! 警察も今、姫奈を探してくれてる! でも、俺は自宅に戻れっていわれて、でも、姫奈が危ない目にあってるかもしれないのに、家でじっとなんてしてられない!」
その瞳には、今すぐ助けに行きたい──そんな強い意志を感じた。だから、自転車を貸せといってきたのか、鮫島はすぐに理解するて
「分かった。それと、黒のワゴンでどんなだ? 他に特徴ねーのか?」
「特徴?」
「あぁ、黒のワゴン車って言っても沢山あるだろ、車種とか特徴とか」
「そりゃ、そうだけど……!」
鮫島の言葉に、皇成は納得する。だが、姫奈が乗った車とすれ違ったのは、姫奈が攫われたと気づく前の話で、当然、注意深く確認しているわけじゃなかった。
だが、それでも、記憶を必死に手繰り寄せ、なにか手がかりがないかと思考をめぐらせる。
すると……
「あ、後ろのフロントガラスに、シールがいくつか貼ってあった、気がする」
「シール?」
「あれ! 『赤ちゃんが乗ってます』ってやつと、神社で車祓いした時にもらうやつとか」
「あー、よくある感じのやつか」
「そうだけど……手がかりにはならない?」
「まぁ、何もないよりマシだろ。車探すのは、俺達も手伝う」
「俺たち?」
「あぁ、お前、俺を誰だと思ってんだ。ここら辺の不良の頂点に立ってる男だぞ。呼べば協力してくれるダチはいっぱいいる」
「おぉ!」
──なんて頼もしい!
今まで勘違いしていたけど、鮫島くんて、案外いい不良だ!! あ、でも、不良漫画の主人公に憧れて、不良になったって言ってたし、そうなるのか!?
「ありがとう、鮫島くん! 自転車は必ず返すから!」
「あたりめーだ! それと、スマホ渡せ」
「え!? もしかして、スマホと交換!?」
「ちげーよ。連絡先交換しなきゃ、姫奈さん見つけても、お前に連絡できねーだろーが」
「あ、そうか!」
言われるまま、鮫島にスマホを渡せば、鮫島は皇成のスマホに自分の番号を打ち込んで発信する。すると、皇成のスマホには、鮫島の番号が履歴として残った。
登録は後にするとして、まさか、あの鮫島と連絡先の交換をするなんて思わなかった。だが、味方が出来たのは頼もしい!
「ありがとう、助かる!」
「勘違いすんな。これは姫奈さんのためだからな。あと、他になにか思い出したら連絡しろよ」
「うん、分かった!」
その後、警察が来る前にと、皇成は、すぐにその場から離れた。
自転車を漕ぎ、ある程度進みまた停車すると、皇成は、そこから、また、ある場所を見上げた。
ビルとビルの間──その視線の先に見えたのは、ショッピングモールの屋上で、ゆっくりと回転する観覧車だった。
(そうだ、観覧車も止めないと……っ)
姫奈を探しながら、観覧車も止める。
だが、きっと警察に言っても信じて貰えない。なら、自分で直接、頼み込むしかない。
皇成は、ショッピングモールの電話番号をスマホで調べると、すぐに電話をする。
──観覧車を、止めてください!
だが、そんな皇成の訴えを、ショッピングモールの店員たちは、一切受け入れてくれなかった。
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