第63話 最悪な結果
家を出た皇成は、パタパタと小走りで住宅街を進んでいた。
まだ10時にもなっていないから、焦る必要はないのだが、一刻に早く姫奈に会いたいという気持ちには逆らえず、普段より早い足取りで、姫奈の家に向かう。
だが、比較的閑静な住宅街を、ひたすら駆ける途中、路地を曲がった先で、突如、猛スピードで走行する黒のワゴン車とすれ違った。
(うわ、危な……!!)
軽く巻き込まれそうになって、皇成は冷や汗をかく。
(人通りが少ないからって、こんなに狭い路地で、あんなにスピードを出すなんて!?)
──そんなことを、心の中だけで愚痴りながら、皇成は、再び姫奈の家をめざし、それから暫くして、姫奈の家の前にやってきた。
いつも通り家の門を通って、玄関の前に立つ。昨夜の雨で、玄関までの道のりは、少しぬかるんでいた。そして、その後インターフォンを押すと、皇成は、すっと気持ちを引き締めた。
(よし、あとは家に連れて行くだけだ)
ここからが本番──と言うように、気合を入れる。だが、その後、しばらく待っても姫奈は家から出てこず……
「あれ?」
──支度に、手間取っているのだろうか?
いや、そんなはずはない。なぜなら、もう準備はすんだと、さっき電話した時に話していたから。
(どうしたんだ?)
──ピンポーン。
不思議に思いつつ、二回目のインターフォンを鳴らした。いつもの姫奈なら、すぐに出てきてくれるのに、何度鳴らしても、姫奈は出てこない。
「っ……いや……まさかな?」
口元が、無意識に引き攣る。
だって、ほんの数分だ。しかも、まだ午前中。姫奈が死ぬ時間は『午後』だと采配されていたし、何かあるなら、きっと午後のはず……!
「あ、そうだ! 電話!」
ハッとして、皇成はすぐさま姫奈に電話をかけた。すると、それは数回コールしたのち、すぐに繋がった。
「あ、よかった! 姫奈──」
『お客様が、おかけになった電話番号は、現在おつなぎ出来なくなっております。しばらくたってから、おかけ直し』
「……え?」
だが、繋がったと思われたそれは、姫奈の声ではなく、通話ができないことを知らせる無機質なアナウンスだけだった。そして、ひたすら繰り返さ流れるその音声を聞きながら、皇成は背筋を震わせた。
「う、そだろ……っ」
心拍は、徐々に駆け上がり、何が起こっているのか分からない動揺で、軽くパニックになる。
なんで? どうして?
さっきまで、普通に話して……っ
「ッ──姫奈!!!」
いても立ってもいられず、皇成は勢いよく玄関を叩きドアノブを引いた。すると、玄関には鍵はかかっておらず、姫奈が扉を開けて、外に出たのだと推測する。
だが、それでも信じらない皇成は、ひたすら中に呼びかけた。
玄関から大声で姫奈を呼ぶ。だが、やはり姫奈が家にいる様子はなく、それどころか、中は前に来た時と変わらず、とても綺麗な状態だった。
家の中に誰かが入った形跡も、揉み合った形跡もない。
だが、現に姫奈は、どこにもいなくて……
「なんで……っ」
意味が、わからなかった。
先日、姫奈の矢印様は《観覧車に乗るな》と言っていた。なら、あのショッピングモールに向かう道中で、きっとなにか事件に巻き込まれるのだと思った。
それなのに、何故か姫奈がいなくなった。
「なんで? 矢印様が、間違えたのか?」
本当は『午後』ではなかった?
いや、でも、矢印様が間違うはずが……っ
「あ、……ッ」
だが、そこに来て、ふと重大なミスに気づいた。
考えて見れば、午後に亡くなるからと言って、午前中に事件に巻き込まれないという保証は一切ないわけで……
「っ……」
それに気づいた瞬間、大きな不安と後悔が、濁流のように押し寄せる。だが、今は落ち込んでる暇も、悩んでる暇もない。
「っ……落ち着け、考えろ……! 姫奈は……っ」
姫奈は、どこにいる?
この数分で何があった?
必死に手がかりになりそうな何かを探し出す。するとふと、先程すれ違った黒いワゴン車のことが脳裏を掠めた。
あのワゴン車は、姫奈の家の方から来た。
なんで、あんなに急いでいたのだろう?
──そうであって欲しくない。
そう願いつつも、皇成は恐る恐る矢印様に問いかけた。
(矢印さま、姫奈は……あのワゴン車に乗っていましたか?)
唱えた瞬間、いつものように《矢印》が現れた。
そして、それは、すぐさま片方を指すと、それを目にした瞬間、皇成は勢いよく、その場から駆け出した。
追うのは、さっきのワゴン車。そして、来た道を戻りながら、皇成は必死にスマホを操作する。
押した番号は──110番。
「ッ──助けてください! 彼女が、女の子が攫われたんです!!」
そして、その電話が警察へと繋がると、皇成は息を切らしながらも必死に訴えた。
先ほど、矢印様が下した采配。それは《姫奈がワゴン車に乗っている》という、あまりにも残酷で最悪な結果だった。
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