最終章 クリスマスと爆弾魔

第60話 家宅捜索


 皇成たちが暮らす桜川は、とても穏やかな町だった。凶悪事件とは無縁そうな落ちついた町。


 だが、そんな穏やかな町の片隅で、人知れず事件が起きていた。


 町外れにある、古びた一軒家。そこに十数名の警官たちとやってきたのは、隆臣の父であるたちばな 昌樹まさきだった。


 三度目の爆破事件のあと、ついに犯人と思しき男を突き止めた警察は、今まさに家宅捜索の真っ最中。


 四畳半の和室の奥からは、先日、薬品会社から盗まれた物と同じ種類の火薬が押収された。


 つまり、この家の主が犯人だと確定したわけなのだが、そこに犯人の姿はなく……


津釣つづりは、どこにいったんでしょうか?」


 カーテンの締め切られた和室の中で、金森かなもりが声を発すれば、その言葉を聞いて、橘も眉をひそめた。


 時限式の爆弾を使った犯行だったため、捜査は難航した。だが、決めてとなったのは、足跡だった。


 薬品会社に残された数種類の足跡の中に、3件目の爆破事件で残された靴の跡と、同じものがあった。


 そしてその跡は、数年前にネットで限定販売されたスニーカーのもので、警察は、当時、そのスニーカーを購入した人物を片っ端から調べあげた。


 すると、その中に二人、この付近に住む人物が浮上した。一人は、家族持ちの男で、話を聞いた結果は『白』そして、もう一人の男が、この家の主──津釣つづり かなめだった。


 現在、24歳の津釣 要は、この一軒家で一人暮らしをしていた。


 仕事は、ショッピングモールの警備員。だが、その仕事も、数日前に突然退職したらしく、今は無職。


 そして、この家に警察が訪ねた時には、もう既に彼の姿はなく、すぐさま捜査令状とって、ガサ入れに踏み込んだというわけだ。


「もし、勘づかれて逃げたのだとしたら、もうこの町にはいないだろうな」

「えぇ!?」


 橘が答えれば、金森が、酷くげんなりした様子で答えた。


「マジすか。はぁ……ここで犯人を逮捕できれば、クリスマスは休めるとおもったのに」

「クリスマス? なんだ、何か予定でもあるのか?」

「……あ、予定ってほどでは。実は、娘たちが観覧車からインミネーションを見たいと言っていて」

「観覧車?」

「はい。この町のショッピングモールの屋上に、デカい観覧車があるんですよ! そこから見るイルミネーションが、かなりの絶景らしくて。で、子供たちが見たいとせがむので、ダメ元で、観覧車の限定チケットに応募したら、運良くゲットできて!」

「なんだ、そうだったのか……」

「あ! でも、こんな事件の犯人を泳がせたまま、のうのうと観覧車になんて乗ってられませんので、24日は、嫁と子供たちだけで行ってもらいます!」

「おいおい、まだ諦めるな。あと二日以内に捕まえれば」

「あ、そうですね! やっと犯人が分かったんですし、あとはとっ捕まえるだけ!」

「橘さん、ちょっといいですか?」


 すると、また別の警官の声にかけられ、橘は、また話に戻る。


 だが、津釣つづりが犯人だという証拠は家の中から多数発見されたが、使用されていない残りの火薬は、どこを探しても見つからなかった。



 *


 *


 *



 12月22日──その日は、皇成たちが通う桜川中央高校の二学期最後の日だった。


 体育館での終業式を終え、クラスでのホームルームが終わると、一年生の四月一日わたぬき つばさは、新聞部の部室に向かった。


四月一日わたぬきくん!」

「?」


 すると、部室の扉を開けるなり、突然声をかけられた。見れば、そこにいたのは、新聞部の部長である長谷川わせがわ 蘭々らんらん


「四月一日くん! 君はボッチだから、友達も恋人もいないですよね!?」


 一つ上の先輩から、いきなり発せられた言葉。それを聞いて、四月一日は


「いませんが」

「あぁ、やっぱり! いないと思ってました! 四月一日くんからは、淀みないボッチのオーラが滲み出ていて」

「部活ないなら、帰りますよ」

「あぁぁぁ、ストーップ、四月一日くん! ボッチなら、24日空いてますよね!?」

「24日?」


 的をえない話に、四月一日は扉を閉めようとしたが、それをまた長谷川が引き止めた。


 24日──それは、まさにクリスマス・イブの日だった。当然、ボッチの四月一日に、クリスマスの予定など皆無だ。


「空いてますが……」

「では、私と一緒に、!?」

「え?」

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