その6

「年下とわかったのなら話は別や! 年上のチトを敬え!」


 それを言ったら、あの中だと圧倒的にアスターが年上なんだけどね。

 なんたって3桁超えているし……とは言っても、長寿のエルフから見たらかなり若いけどね。


「ハイハイ、ワカリマシタワカリマシタっと…………ふ~む……」


 ルイカちゃんがチトちゃんの言葉を流しつつ、ジッと3人を見て何やら考え込んでいるわ。


「ほんまにわかっとんの!?」


「……」


「おおい!!」


 チトちゃんの声は聞こえていないっぽい。

 いや、わざと無視をしている感じもするわね。


「……ちょっと不安があるけど……まぁそこはあたしがフォローすればいいか……よし、決めた」


 ルイカちゃんってば、どうしたのかしら?

 何やらブツブツと言っているけど……。


「ねえ、シオねぇ。あたしをシオねぇのパーティーに入れてよ」


「「「えっ?」」」


 シオン達が不思議そうに頭を傾げている。

 なるほど、ルイカちゃんはシオン達のパーティーに入るかどうかを考えていたのか。


「いや~そろそろ1人で依頼をこなしていくのが辛くなって来ていて、どこかのパーティーへ入ろうかなと思っていたところなんだよ。なら、顔見知りのシオねぇがいるパーティーがいいな~と思ったわけ。どうかな?」


 まぁ確かに、知り合いがいるパーティーの方がやりやすくはある。

 ただ、そうじゃなくても新しい出会いや経験が積めるから


「なるほど……わたくしは問題ありませんわ!」


 シオンがすごい笑顔。

 チトちゃんと同じように、友達とパーティーを組めるのが嬉しいのね。


「チトは反対や、冒険者とは言うてもまだ子供。討伐系の依頼は危ないから、怪我でもしたら大変や!」


 何だろう、チトちゃんがそれを言っても説得力が全くない。

 というか冒険者としてなら、1カ月とは言えルイカちゃんの方が早いのだけどね。


「そう言うなって、仲良くしようよ。え~と……チ……チ……」


「チトや! 2文字何やから覚えられるやろ!」


 これは完全にチトちゃんが遊ばれているわね。

 それにしても、ルイカちゃんってこんな子だったかな。

 大人しい子って感じだったんだけど……もしかして、普段はこんな感じで私達の前では大人しくしていたのかしら?


「そうだった、そうだった。よろしくお願いします、チト先輩!」


「へっ? せっ先輩!? ……しゃあないな~あんたの面倒はこのセ・ン・パ・イであるチトが見てあげるわ!」


 ちょろい。

 実にちょろいですよ、チト先輩。


「私も異存はありません。アスターと申します。よろしくお願い致します、ルイカ様」


「よろしく~。あと、あたしの事はルイカでいいよ」


 シオンのパーティーが4人になったわ。

 私達が旅をした人数と同じ、パーティーメンバーの血筋もほぼ同じ……こんな事ってあるのね。


「わかりました。それにしてもケイト様の娘という事は神官ですよね、パーティーに神官がいると実に心強い」


「えっ? あ~……」


 ルイカちゃんがアスターの言葉にばつの悪そうな顔をしている。


「……隠していても仕方ないか……実は回復魔法が得意じゃないんだよ、擦り傷切り傷を治す程度はできるんだけど……だから、あたしはモンクなんだ」


 神の慈悲を受けた神官ケイトの娘、まさかの武闘派へ。

 喧嘩をした理由って、まさかそれじゃないでしょうね?

 うん、とりあえず今日の事が済み次第ケイトに手紙を即出そう。


「ぷっ擦り傷切り傷を治す程度って、ヨギ草と変わらんやん」


「――あ! おい、今笑っただろ!?」


「チトはわろてへん~」


「いいや! 確かに笑ったぞ!」


 チトちゃんとルイカちゃん、血筋のせいなのかやり取りがロイドとケイトにそっくり。

 2人もこんな言い合いが多かったっけ。

 何だか懐かしいわ……。


「まぁまぁ、お2人とも今日から仲間なのですから仲良くやりましょう? ねっねっ?」


 シオンが2人をなだめる姿も、昔の私を見ている様だわ。


「ほら、今日の依頼を早く選ばないと無くなってしましますわよ!」


「「……フン!」」


 あ、シオン達が掲示板を見始めた。

 私も近づいて、何を選ぶのか確認しないとね。

 ……大丈夫だとは思うけど、やっぱりバレないかドキドキするわ。


「今日も依頼は結構……あっ」


 流石に、アスターは私の存在に気が付いたみたいだわ。


「ん? どうかしましたか?」


「いいえ、何も!」


 そうそう、シオンに気付かれない様にそっちに集中してね。


「そうですか。それでは何を選びま……」


「どうしたんだ、シオねぇ?」


「依頼書の1枚が、風も無いのに揺れていますわ……」


「え?」


 確かに1枚の依頼書が不自然に揺れている……という事は、ローニの目が覚めたのか。

 というか、なんで昨日と同じ手を使っているのよ。


「……うおっ! マジだ!」


「どないしたん? ……え? 何あれ……」


 2人も驚いている。

 アスターだけがしらけた目で見ている。


「……あの依頼書、昨日も揺れていましたわ」


「そうなん? なんか不気味やね」


「わたくしもそう思って、昨日は触れないようにしましたわ」


「……なら、今日も見なかった事にしよう」


 それが一番です。


「……では、皆さま。これなんてどうでしょうか?」


「どれですか? ふむふむ……」


 シオンがアスターから依頼書を受け取った。

 一体何の依頼を……って、シオンが私の方を向いているから依頼書の内容が見えないし!

 かと言って、後ろに回りこんで覗くのも明らかに不自然な動きよね……それにそんな事をすれば、シオンに気が付かれる可能性もあるし……まずい、どうしよう。


「……わたくしはこれでいいと思いますわ! すごく冒険者っぽいです!」


 何がいいんでしょうか? 私も見たいです。

 シオン、依頼書の角度を変えて私に見える様にしてくれないかしら。


「おい……今の見たか?」


「ああ、見た……」


 なにやら扉付近にいた人達が騒いでいる。

 うるさいわね~こっちは依頼書を見る方法を必死に考えている所なのに……。


「扉がひとりでに開かなかった……誰も出入りしていないのに……」


 え? ひとりでにって……。


「なっ何を馬鹿な事を言っているんだ……き、きっと突風だよ突風! それで開いたんだ! びっびびることはねぇよ!」


 扉が開くほどの突風なら、すごい風の音がするはずだけど……外は静かよね。

 どういう事……あっそうか、ローニの仕業だ!

 ローニなら、シオン達の後ろに回り込んで依頼書の内容を簡単に読める。

 それで目的地に行く為にギルドから出た所を、他の人達に見られて扉がひとりでに開いたように見えてしまったんだわ。

 何たる不覚! ローニに先を越されてしまったわ!!

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