その5

「ちっ違いますわ! アスターさんはわたくしの護衛をしてくれているお方で、チトちゃんはわたくしの子供ではなく仲間ですわ!」


 シオンが顔を赤くして、必死に否定している。


「そうや! チトはれっきとしたシオンちゃんの仲間や!」


 チトちゃんも顔を赤くして、ピョンピョンと跳ねている。

 そいう所をみちゃうと子供にしか見えない……。


「何だ~違うのか~残念……」


 そして、ルイカちゃんがすごくガッカリした顔をしている。

 何でそんなに残念がっているんだろう? そんなにシオンの子供が……って、まずい!

 シオンの子供って言葉、ローニが反応しないわけがない!

 私の馬鹿! すぐに臨戦態勢に入らないといけない所なのに!


「――っ!」


 でも、まだ動きは見せていないから間に合う。

 飛び出して来た瞬間に、風魔法で吹っ飛ばして……。


「…………」


 ……あれ? 姿を現さなければ何の反応も無い。

 もしかして、ローニってばさっきのドアの一撃で気絶しちゃってる?

 普段聞かないような雄叫びをあげていたしあり得るわね。

 ルイカちゃんってば、どれだけ勢いよくドアを開けたのよ……。


「というか、シオねぇ。こんな子供を冒険に連れて行くのは良くないと思うよ?」


 ルイカちゃんがチトちゃんを見下ろして指を指している。

 2人の身長差が激しいから、ルイカちゃんの方が母親に見えて仕方ない。


「せやから、チトは子供じゃない! っちゅうか、あんたは誰!? シオンちゃんとはなんなのよ!?」


「さっき名前を言ったろ~聞いていなかったのか?」


 ルイカちゃんが、またチトちゃんの頭を撫でだした。

 あ~そういえばルイカちゃんって子供好きだっけ。

 なるほど、さっきガッカリしていたのはシオンの子供じゃなかったからか。


「あんたの言葉で吹っ飛んだわよ! っちゅうか、頭を撫でるな!」


 チトちゃんが怒りながらルイカちゃんの手をはらった。


「え~と、この方はルイカ・エリオットちゃん。ケイトおば様の娘さんですわ」


「エリオット……ケイト……? って、英雄の1人であるケイト・エリオット様ですか!?」


 そう、ルイカちゃんの母親は羊の獣人であるケイト。

 そして父親はケイトの教会に通っていた、人間ヒューマン族のニックさん。

 だから、ルイカちゃんは羊の半獣人でチトちゃんと同じく珍しい。

 ……にしても娘達が、こんな所で全員揃うだなんてすごい光景ね。

 エルフの男であるアスターが、すごく浮いちゃっている。


「そうですわ、わたくしが病気や怪我の度に治療魔法をかけていただいていましたの。その時にルイカちゃんとはちょくちょくお話をしていましたの」


 最近はシオンが調子を崩す事も無くて、教会に全然行ってなかった。

 まぁその方がいいんだけどね。

 健康が一番だもの。


「それにしても、ルイカちゃんがギルドに居るとは思いも……あれ? という事は、もしかして……」


「そのもしかしてだよ、あたしは冒険者なの」


 ルイカちゃんが冒険者のプレートを取り出したわ。

 星は1つって事はシオン達と同じか。

 それにしても、ルイカちゃんが冒険者になっているのは知らなかったわ。

 なんでケイトは教えてくれなかったのかしら?


「わ~! ルイカちゃんもなのですね!」


 シオンがすごく喜んでいる。

 娘たちが揃っているのもすごいけど、全員が冒険者になっているのもすごいわね。


「も? じゃあ、シオねぇも?」


「はいですわ! わたくし達も冒険者ですわ!」


 今度はシオンが昨日貰った冒険者のプレートを出した。


「そうだったのか! ……え? まさか、この子供も……」


「仲間やから当然やろ! ――ほら、これを見い!」


 チトちゃんも冒険者のプレートを出して、ルイカちゃんにつきつけた。

 ルイカちゃんがそのプレートをみて目を真ん丸にしている。


「まじかよ……ギルドは、こんな子供まで登録を許可するほど人手不足なのか?」


 ルイカちゃんが首をかしげているけど、そういう訳じゃないのよ。

 見た目より年齢高いからね。


「どうしてそうなんねん! チトは――」


「まぁその辺りはギルドの判断だしあたしの言う事じゃないか。で、シオねぇはなんでまた冒険者になったの? 正直、シオねぇみたいな華奢な人には冒険者に合っていない様に見えるんだけど……」


 チトちゃんを無視して話題をシオンに振っちゃった。

 そんな事をしちゃうと、ますますチトちゃんが怒って……。


「あっチトもそれ思った」


 あんなに怒っていたのに、自分が興味を持った瞬間に収まっちゃった。

 チトちゃん……流石に単純すぎだと思うんだけど。


「あ~それはですね…………まぁ簡単に言えば、お父様の度が過ぎた行動が嫌で家を出てきましたの」


 そのお父様はしっかりと貴女の後を追ってきていますけどね。

 ……私も目の前にいるんだけど。


「あ~わかる~あたしの場合はお袋なんだけどね。1カ月ほど前に大喧嘩をして教会を飛び出したんだよ」


 1か月前か……なるほど、それでケイトから連絡が無かったのね。

 ケイトも頑固者だから、ルイカちゃんが謝らない限り放任する気なんだわ。


「で、教会を出た後どうしようかな~って彷徨っていたらギルドが目に入ったの。そこで閃いたわけ、冒険者ならお金も稼げるし、あたしの修行にもなるなって!」


 ルイカちゃんが、その場でパンチを打っている。

 あの姿を見ていると、おしとやかなケイトの娘とは到底見えない。

 父親似なのかしら?


「そうでしたの。あっチトちゃんは、どうして冒険者に?」


「チト? チトはな~昔魔物討伐で来た女性冒険者を見てやな。その姿がかっようてな~ずっと憧れを持っとったんだ。それで1週間前のチトの誕生日に冒険者になったんだ」


 なるほど……って、1週間前!?

 それでよく昨日は任せとけとか、大きな事を言えたわね。

 これ、完全に新米軍団のパーティーじゃない。

 大丈夫なのかしら?


「おお! もう過ぎてしまいましたが、お誕生日おめでとうございますわ!」


「えへへ~ありがとうな~」


 チトちゃんが照れ臭そうに右手で頭を掻いている。

 ロイドと同じ癖ね。


「へぇ~そうだったんだ。で、いくつなったんだ?」


「16だけど……」


「……はあ? 16だって!?」


 ルイカちゃんがすごく驚いている。

 それもそうよね……だって、ルイカちゃんの歳は……。


「あたしより2つも上!?」


「2つって……え!? じゃあ、あんたは14歳って事!?」


 そう、年齢的にはチトちゃんが16歳、シオンが15歳、ルイカちゃんが14歳で全員1歳違い。


「……マジかよ……。シオねぇよりも上じゃん……」


 見た目的にはまったくの真逆。

 いや、ルイカちゃんは20歳前後でチトちゃんは10歳前後にしか見えないか。

 シオンは年相応に見えるから普通ね。

 それはそれでいいんだけど……あの中じゃ逆に面白みがないわね。

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