第16話 ステラ、海獣と戦う

 残る食料は十日分。もう、猶予はなかった。


「みんなの命、私に預けて!」

「「「おおーっ!!!!」」」


 私が宣言すると、みんなは腕を突き上げながら、大声で応えてくれた。


「さぁ、行くわ。海獣へのリベンジ、この《水流魔法》で果たしてみせる!」


 覚悟を決めた私たちは、いざ船に乗り込んだ。

 目標は、付属島の中でも最大の大きさを誇る、かつての農業生産地《西島》だ。


 資料を見る限りだと、それこそ広さが本島の数十倍……もしかしたら百倍近くはあるかもしれない。

 そっちを本島にすればよかったのにと思ったんだけど、どうやら理由があったみたいなんだよね。


 どういうことかというと、行き交う貿易船の入港に一番適していたのが、今の本島――《北島》だったって訳。

《北島》は珊瑚礁でできているから起伏がないし、礁湖ラグーンに停泊させておけば荒波の不安もない。ちょうどいい寄港地になる。


 あくまで群島《ムルベレツ》は、交易で成り立っていた領地。商品取引のための市場さえ置ければ、土地の広さはそれで十分だったみたい。

 ちなみに、他の三島は断崖絶壁で囲まれていて、大型船を複数停泊させられるだけの場所がとれないらしい。




「錨を上げなさいっ! いざ行かん、明日への命を繋ぐ食料を求めて! 目標は《西島》! たとえ海獣といえども、私たちの邪魔は、決してさせないわ!」

「「「えいえいおーっ!」」」


 私のかけ声に合わせて、みんなの雄叫びが上がる。

 抜錨され、船はゆっくりと進み始めた。


 魔力を込めた羅針盤と資料に挟まれていた海図を頼りに、ひたすら船を南西へと進める。

 その日は、特に何ごともなく順調だった。


 しかし翌日、私たちはとうとう、会いたくないに出会ってしまった。




 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「海獣が出たぞー!!!!」


 見張りの怒声が船内に響き渡った。

 私はミランと共に船尾に出向き、ヤツの巨体を視界に捉える。


「予想どおり、現れたな!」


 ミランは興奮気味に叫んだ。


 やっぱり、海獣のほうが船よりも速い。

 このままでは瞬く間に接近され、船は粉々に破壊されてしまう。


「一度私たちを逃がしているもの。今度こそ絶対に沈めてやるって、そう意気込んでいるに違いないわね」

「確かに……。なんだかやる気満々って感じで、追ってきているな」


 いったい、私たちの船の何倍あるんだろうかという、あの巨体。

 身体をぶつけられでもしたら、こんな木造船、あっという間にバラバラだ。


「やるしか、ないわね!」


 海獣がものすごい勢いで迫ってくる。

 もう、あれこれと考えている暇はなかった。


「みんな、手はずどおりに頼むわよ!」


 私は覚悟を決め、周囲に声をかける。


「頼みますぜ、ステラ様!」

「もちろんよ! ……海の王者が誰なのか、あいつの身体に叩き込んでやるんだから!」


 みんなを鼓舞しようと、私は強気の姿勢を見せた。


「《水流魔法》の真価、今こそ見せてあげるわっ!」


 両手を前に突き出し、海獣の周囲の海面に意識を集中させた。


 すると、海獣の巨体を囲むように海水が渦巻き始める。

 渦はどんどんと勢いを増し、やがて完全に海獣を捉えた。

 以前も使った大渦だ。


 これは、次の攻撃を確実に当てるための第一歩。

 まずはヤツを減速させないと、攻撃を狙ったところに当てられないしね。


「よっしゃあっ! どうだ、見たか!」


 ミランが海獣に向かって吼えた。

 眼前には、大渦に翻弄される海獣の姿がある。


 足止めは成功した。

 ヤツが渦に捕われて動けないうちに、できるだけダメージを与えないと!


 私は再び詠唱を始める。


「狙いは……あの長い首かな!」


 視線を海獣の首元に固定し、私は腕を振り上げた。


「さぁ、こいつを食らって、恐怖におののくがいいわっ!」


 詠唱の完成した《水流魔法》を放つべく、私は腕を振り下ろそうとした――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る