第14話 ステラ、従者の【天啓】を知る
「このままじゃ、私たちはみんな干上がっちゃう……」
旧領主館の資料室を発見し、情報収集を始めてから、数日が経過していた。
調べれば調べるほど、現状を打破するには、周辺他島への道を切り開く以外になさそうだとわかってきた。
じわりじわりと這い寄ってくる、食糧不足への不安。
船で持ち込んだ保存食の残りも、あと二十日ほどになっていた。
「食糧が尽きるまでに、なんとしても資料に書かれていた島まで行かないと……」
私は腕を組みながら、浜辺をグルグルと歩き回った。
どうしたらいいんだろう、と。
「おーい、ステラ!」
そこに、ミランがやってきた。
「ミランっ! って、あら? あなた、乗馬は苦手だったはずじゃ……。珍しい」
「ふふーん。そっか、ステラにはまだ言ってなかったっけ」
ミランは馬からひょいっと降りて、私にニヤリと笑みを向けた。
ちなみに、馬は二頭だけ、船に乗せて連れてきている。
「実はね、【天啓】として《騎乗》を授かったのさ」
ミランも私と同じ十二歳。
同時期に洗礼式を済ませていたようだ。
「《騎乗》っていうと、確か……」
わりとレアだけれど、まったく知られていない能力でもない。
授かった人は、騎士を目指したり、上位貴族の従者をしたりっていう例が多かったかな。
あとは、大商人の元で交易品を運ぶ馬車の御者になったりっていうのも、聞いたことがある。
貴重な商品を速く安全に運びたい大商人にとっては、喉から手が出るほど欲しい能力なんだって。
授かれば将来が明るい、まさに大当たりの【天啓】。
「そう、この【天啓】があれば、どんな凶暴な馬だって、たちまち意思を通わせ乗りこなせる。僕みたいな従者向きのスキルさ」
「よかったじゃない。乗馬が苦手だからって、だいぶ悩んでいたみたいだし」
「まったくだよ。神様に感謝、だな。これで、ステラの従者として胸を張れる!」
ミランはぽんっと胸を叩き、うれしそうに微笑んだ。
「で、また何か悩んでいたみたいだけど、どうした?」
「……食糧問題よ」
「あぁ、なるほどね」
ミランは馬を近くの木に繋ぎ、私の傍に駆け寄ってきた。
「資料に書かれていた《西島》に、どうしても行きたいの。かつての《ムルベレツ》の食料生産を、一手に引き受けていたみたいだし。……でも、私たちの船は一隻。もう一隻新たに外洋船を作っている時間は、さすがにないわ」
「沖に出て、もしまたあの海獣に襲われでもしたら、ヤバいな……」
「そうなのよ。虎の子の船が壊されちゃうと、もう外海に出る手段がなくなっちゃうわ。そうなれば、待ち受けるのは餓死。……もう少し、確実性のある手段が欲しいのよね」
私はミランと顔を見合わせ、ため息をついた。
「結局、食料関連の資料を見つけたはいいけれど、海に出られなければどうしようもないってわけ。うんざりしちゃうわ」
私は胸元からペンダントトップを取り出し、ぎゅっと握りしめた。
このペンダントは、実の母様からもらった大切な品。バルテク邸に引き取られる際に、託されたものだ。
「それって、確かステラのお母さんからの」
「えぇ……。苦しい時にこれを手に取ると、自然と力が湧いてくるのよ」
ミランにペンダントトップを見せる。
「見たことのない紋章が刻まれているね。ステラのお母さんの家の、家紋か何かなのかな?」
「その辺り、詳しい事情はわからないの。母様は平民のはずだから、家紋っていうのもなんだか変な話よね。バルテク家に引き取られた六歳の時以降、母様とは会えずじまいだから、これ、いまだに謎のままなのよ」
「あの性悪奥様のせいで、田舎に引っ越しさせられたんだっけ?」
「そう、嫌になっちゃう。……あーあ、この島へと流される前に、一目でも会いたかったな」
ミランの言う性悪奥様――父様の正妻で、おバカな兄様たちの実の母親だ。私の、義理の母様でもある……。
薄くはあるけれども王家の血も入っている義母は、プライドが高く、嫉妬深くもあった。
正直、いい思い出はない。
私がバルテク家に引き取られる際、父様の関心が再び私の母様に向けられるのではないか。
義母はそのように恐れて、母様を遠ざけさせたんだ。
「いつか、再び大陸に戻れる日が来たなら、母様にきちんと挨拶をしたいなぁ」
ペンダントトップを胸元にしまい、私は大きく息を吐き出した。
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