第12話 ステラ、廃墟を発見する

 島を一周した結果、やっぱりこの無人島の大きさは、たいしたことがないとわかった。


「ステラ様、この広さではちょいと農業は厳しそうですぜ。真水の量も、農業用としてはとてもとても……」

「そう……。困ったわね」


 農業経験のある使用人の言葉に、私は頭を抱えた。

 つまり、いずれは食糧が尽き、餓死する危険性があるという状況……。


「かといって、船で島から逃げ出すってわけにもいかないわ。危険すぎる。それに、王国へ戻っても、父様たちがどう出るかわからないし……」


《水流魔法》で海獣から逃げまわることだけはできる。

 けれども、毎回必ず逃走が成功するとは限らない。


 安易に大海原へと漕ぎ出して、万が一の事故があったら大変だ。唯一の外洋船が壊されたら、それこそもう終わりなんだから。


 今のこの島の現状を端的に言ってしまえば――。


「緩慢な死を待つだけの、脱獄不可能な監獄、か……」


 たちの悪い冗談だと思いたい。

 でもこれ、現実なのよね。


「このままじゃ、スローライフどころじゃないよぉ……。みんなで干からびるのを待つだけだなんて、最悪にもほどがあるわ」


 私はため息をつきながら、森に生えていた香草を使ったハーブティーを口に含んだ。


「ねぇ、私はどうすればいいのかな?」


 ティーカップを置き、相対して座るミランの眼を見つめた。


「そうだなぁ……」


 ミランもティーカップをソーサーに戻し、腕組みをしながら考え込む。


「やっぱり、死を覚悟に島を出て、海獣の待つ大海原へと漕ぎ出し、大陸に戻る道を考えるべきか?」


 私は首を横に振る。


「それとも、この島にとどまり、このままみんなで仲良く骨と皮になる?」


 私はまたも、首を横に振った。


「……どっちも、まっぴらごめんだよ」


 私はテーブルに突っ伏し、ふうっと息を吐き出した。




 諦めきれない私たちは、もう一度島を探索することにした。


「絶対に、この島には何かあるはずなの」


 そもそも《ムルベレツ》は、遙か昔は有人島だった。

 周辺海域に凶悪な海獣が住み着くようになって、大陸との交流がなくなった島――。

 そのように父様から聞かされていた。


「そうは言っても……」

「諦めちゃダメ。もっと入念に探せば、この島で暮らしていた人たちの記録が、何か残されているかもしれないわ!」


 私は苦笑するミランを叱責し、彼を引きずるように引っ張りながら、島の中央にある礁湖ラグーンへとやってきた。


「まだ、あの小島は見ていないじゃない」

「あんな場所、何もないだろう?」


 礁湖の中央には、小さな島が浮かんでいる。

 その小島は、唯一まだ調査をしていない場所だった。


 なぜなら、遠目から見る分にはなにもなさそうに感じたし、泳いでいくにはちょっと厳しそうな距離なので、わざわざ小舟なりを用意しなければいけなかったから。


「あの島に賭けるわ。私を信じて!」

「ま、ステラがそこまで言うなら……。丸太を組んで、筏を作ろうか」


 ミランも折れてくれ、数人の使用人とともに木を切り倒し始めた。




 私の予想は、どうやらドンピシャリだったみたい。

 小島の中央には、明らかに人造だと思われる朽ちかけの建物があった。


「ボロボロに風化しているから、そのまま住むのは難しそう……。でも、元は結構立派な建物だったのかもしれないわ」

「基礎は再利用できそうだし、ここに本拠を構えるのもいいかもしれないね」


 ミランは崩れかかっている壁を撫でながら、興味深げにキョロキョロと周囲を見回している。


「何かないか、手分けして探しましょう」


 私の号令一下、みんなが散り散りになった。

 やっと見つけた人の痕跡、絶対に手がかりを見つけてみせる。


 私は手袋をはめ、雑草をかき分けつつ辺りを探索した。




 しばらくすると、ミランの声が周囲に響き渡った。


「みんな来てくれっ! 地下室を見つけたっ!」

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