第10話 ステラ、従者と島の現状を語らう

 島に上陸して数日が経過した――。


「ねぇ、ステラ。海を見ながらぼうっとして、どうしたんだ」


 私が砂浜で立ち尽くしていると、ミランが隣にやってきた。


「この島での新生活。いろいろ障害が転がっているなって思って、ね」


 私はため息交じりに言った。

 すると、ミランは私の両肩に手を置いて、じいっと見つめてきた。


「大丈夫だよ。せっかく実家を離れて領主になれたんだし、ステラならバッチリ、僕たちを導いてくれるはずさ」

「あはは……。期待してくれるのはうれしいけれど、私は領主経験のないただの子供よ。あまりあてにはしないでね」


 うぅっ、そんなに顔を近づけないで! さすがに緊張しちゃう。

 などと思いつつ、私はミランの言葉をやんわりと否定した。


「またまたぁ。わかってる。わかってるから! ステラってば、本当は領主生活、楽しみなんだろう?」


 わかっていない! わかっていないからね!

 と心の中でツッコミを入れるけれど、ミランはニコニコと笑いながら、なにやら納得顔でうなずいていた。


 うーん、困ったわ……。

 そんなにお気楽にしていられる現状じゃないんだけれど……。




 私たちは、砂浜に腰を下ろした。


「で、ステラの考える障害って、なに?」

「そうねぇ……。せっかくだし、ミラン、当ててみてよ」

「えぇー、僕が? ……なんだろう」


 ミランは腕を組んで、小首をかしげる。


「まずは、ここが無人島ってことかな」

「あたり。私たちの仲間は十人ちょっと。開拓して生活していくには、すこーし人材が不足している気がするのよね」

「一通り何でもこなす人が多いけど、そもそもの人数が少なくちゃ、確かにいろいろと作業も滞りそうだよなぁ。島に住んでいる人が他にいない以上、外部の人手には頼れない、かぁ」


 納得してくれたようだ。


「じゃ、他にはどうかな?」

「そうだなぁ……」


 ミランは口元に手を添え、ブツブツとつぶやきながら考え込む。


「あっ! この島が、あんまり広くないっていうのも、問題だな!」

「あたり! いい感じじゃない、ミラン」

「ふふーん、たくさん褒めてくれていいぞ」


 頭を差し出してきたミランを、私は優しく撫でてやった。

 ミランはうれしそうに私に身を委ねる。


 転生の記憶が戻って精神年齢が上がったせいか、同い年のはずのミランがやけに幼く見える時がある。

 ついつい、いい子いい子をしてしまった。反省……。


「まだ全体を探索しきってはいないけど、広大な島って感じじゃないよね。ということは、ここで入手できる資材にも、自ずと限りが出てくるはずなの」

「今あるものを節約して使っていかないと、あっという間に島が丸裸ってわけか……」


 ミランはなるほどとつぶやきながら首肯した。


「まだあるわよ?」

「むむぅ……。問題山積なんだな……」

「問題がなければ、長期間放置なんてされないしね」


 私はちらりと海に視線を送った。

 ミランも釣られたように海へと顔を向けると、ハッと何かに気がついたようだ。


「あっ! 周囲の海域に、例の凶悪海獣が居座り続けているってことか!」

「正解! 今の私たちじゃ、逃げ回るのが精一杯の相手。いずれは《水流魔法》でどうにかしたいけれど、現状ではまだ倒せないわ。乗ってきた木造船の耐久力を考えると、一発体当たりを食らったら木っ端みじんだと思うのよ」

「そう考えると、僕たちって今、実質的にはこの島に閉じ込められているのと変わらない状況なのかぁ……。もしかして、かなりピンチだったり?」

「ピンチだと思うわ……」


 私たちは顔を見合わせ、苦笑し合った。


 さて、外部要因での問題はこんなところかな。

 あとは、私の個人的な想いからくる問題だけれど……。

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