第6話 ステラ、覚醒する

 海に巨大な渦が発生し、海獣を完全に捕らえていた。

 私は両手を海獣に向けつつ、《水流魔法》を維持し続ける。


 これだけ大規模な魔法を使っているにもかかわらず、魔力の消費が少ない。ものすごい燃費の良さに感動すら覚えた。


 きっと、同じ規模の渦を作り出そうとしても、《水属性魔法》や《万能魔法》では魔力不足で無理だろう。

 たとえ、私の全魔力を注いだとしても、だ。


 それほどの、圧倒的な高効率。

 これなら確かに、私は水の王者になれるかもしれない。


「これが、《水流魔法》の真価……」

「すごい……。すごい、すごい! すごいよっ、ステラ! すごいすごいすごいっ!」


 ミランはすっかり興奮し、『すごい』を連発しつつ大渦を指さしていた。


「これって、ステラ様の魔法ですかい? こいつぁ、見たこともないような大渦ですぜ!」

「すさまじすぎですよ! あの海獣、まったく身動きがとれなくなっています!」


 甲板から、みんなの昂ぶった声が次々と上がる。


「初めて使った魔法だから、いつまで効果が持つかわからないわ。とにかく、島に向かって急いで、急いで!」


 足止めが成功しているうちに、海獣から距離を取らないと。


「もちろんですぜぇ、ステラ様! 後は任せてくださいな!」


 操舵手からの力強い返事が飛んできた。


「今度は船の下に、島方向への海流を作ってみようかな。船の速力をグンと上げられるはずよ!」


 海獣はいまだに戸惑っている。

 距離を稼ぐなら、今しかないと思った。


 私はミランとともに船尾へ移動し、《水流魔法》をすぐ下の海面に向かって放った。


「うわっ、とと。危なっ」


 船がガクンと揺れ、ミランが私にしがみつく。

 目論見どおり、船が急加速した。


「うわわわわわっ、速ぁーーいっ! なにこれなにこれ! 気持ちよすぎ!」


 私は両手を目一杯に広げて、髪が乱れるのも厭わず、前方からの風を全身に浴びた。


 絶体絶命の危機のはずなのに、自然と心が弾む。


 ふと、転生前に乗ったフェリーを思い出した。

 でも、今はそのフェリーよりもずっと高速だ。


 発生した海流のおかげで、今までの倍近い速度が出ていた。

 これなら、船体に過度の負担をかけずに海獣から逃げられると思う。


『グギュルルルッッッ!!』


 後方から不快な叫び声が聞こえる。

 振り返って様子を見ると、どうやら海獣が弱まった大渦から抜け出し、追撃を始めたようだ。


「また追ってきたよ、ステラ! って、うわっ、速いぞ!?」

「さすがに、二百年間もこの海域を支配してきただけはあるわね。追いつかれるかは、ちょっと微妙な感じかもしれない……。よしっ!」


 追撃を妨害しようと、再び《水流魔法》の詠唱を始めた。


「いくわよっ! 今度は、大きな水の壁を作って、思いっきり邪魔してやるんだからっ!」


 船と海獣との間に、分厚い海水の壁を作った。


 壁の内部は濁流が渦巻いているので、無理に突破しようとしても激しい抵抗を受けるようになっている。

 また、海中に潜られてもかまわないように、壁の直下にもかなり深いところまで乱水流を発生させた。


 これなら、相手も減速せざるを得なくなるはず。


「やった! やったやった! あいつ、ステラの作った海水の壁に阻まれているぞ! ざまぁみろって!」

「いける! いけるわ! このまま逃げ切れる!」


 まだまだ魔力は余っている。

 たとえ壁を突破されたとしても、さらなる次の手を考えれば問題ない。


 水が豊富な場所なら、間違いなくこの《水流魔法》は使えるわ!


「ステラ様! 前方に島影がっ!」


 見張り役から声が飛んだ。

 目をこらしてみてみると、船首のずっと先にぼんやりと影が見える。


「よぉし! この追いかけっこは、私たちの勝ちよ!」


 徐々に大きくなってくる島影を見つめながら、私は声高に叫んだ。

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