習い事
カタバミが生えていた。電柱の下から、コンクリート塀の下から、逞しい生命力を持って顔を出していた。クローバーのような葉が茂る中に黄色い花がポツンポツンと可憐に咲いていた。また、似たような葉を持ちつつも紫の花を咲かせるムラサキカタバミもあちらこちらで目に付いた。花弁の紫色は花の中心部に向かうにつれて白へと近づいていく。色の抜け方が見事だった。
しかし、たんぽぽの綿毛やひっつき虫などの遊べる植物ならいさ知らず、こんな雑草に目を留める子どもはそうそういない。
「おっとっと」
現に今も、走ってきた子どもに踏まれそうであった。
「あら浩太、そんなに急いでどうしたのよ」
「ああ、莉奈。いや、上の信号が黄色に変わったから、そろそろかと思って」
「あ、ほんとだ。変わったわ」
タイミングよく信号が変わった。
「でも、そんなに急がなくても良かったんじゃない? 次で渡るんでもさ」
「この後習い事があるからね。なるべく早く帰っておきたかったんだ」
「習い事ねえ」
莉奈は記憶を掘り返す。
「確か今日は体操だっけ」
「そうそう。自転車で二十分くらいかかるところでやるからさ、行くのにめんどくさいの」
「ああー、わかるわ。わたしも十露盤教室遠くていやになっちゃうし」
「だよなあ。もっと近けりゃ楽なのに」
「ほんとそれよ。まあ、丹生とかもいるからいいんだけど」
「友達いるっていいよな。俺のところなんてだれもいないぞ」
「うわっ、それはきついわね」
「そうなんだよ。話す人はいるんだけどさ、なんか、莉奈なんかと話してるのとはちがうの」
「知らない人だと気を使うのよね」
「いや、知らない人とまではいかないけどさ。そこでしか合わない人だしねー」
「うーん、でも、わたしは十露盤教室のほぼ全員と話すわね」
「ええー、それは丹生とか、クラスメイトがいるからだろ」
「あ、そうかも。なんか気づいたらいっしょに話してたわ」
「そういうのがないんだよなあ。……ねえ、どう? 体操やらない?」
「やらないわ」
「ええー、だめかぁ。蓮二とか明もさそったんだけど、みんなやらないって言うの」
「それは残念だったわね」
「ほんと。大分ショックを受けた」
「ま、がんばって来なさいよ」
「へいへい」
「うわっ、気の無い返事」
「だってやる気出ないし」
「はぁー。それじゃまた明日ね」
「うん。じゃねー」
だらだらと浩太が歩いていく。信号まで走ってきていた時とは大違いだった。長い影が左右にゆらゆらと揺れながら遠ざかっていく。ひどく疲れているように見えた。
そんなに嫌かなあ、と莉奈は見送りながら思った。
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